保全生態学研究
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解説
ベイズ推定法の適切な活用について -エゾシカ個体数推定の例-
山村 光司
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 23 巻 1 号 p. 39-56

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抄録

野生生物の個体数を推定する際に、計算の簡便さから近年ではBayes(1763)流のベイズ推定法が用いられることが多い。Bayes(1763)流のベイズ推定法は、事前分布が未知の場合に一様分布あるいは非常にフラットな分布を事前分布として用いることを特徴としている。マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC 法)に基づくソフトウエアを用いることにより、ベイズ推定法では複雑な推定問題も簡単に解決できそうに見える。Fisher(1922)はBayes(1763)流のベイズ推定法の致命的な欠陥を指摘し、Bayes(1763)流のベイズ推定法に代わるものとして最尤推定法を提案した。分析の前に行う変数変換法を変えれば、Bayes(1763)流のベイズ推定法ではいくらでも異なる推定値を作成することができる。これがFisher の指摘したBayes(1763)流のベイズ推定法の問題点であった。しかし、Bayes(1763)流のベイズ推定法において、事後分布が左右対称に近くなるような適切な変数変換法(経験ジェフリーズ事前分布)を用いれば、事後分布のメディアンを最尤推定値として利用することができ、事後分布の2.5%分位点と97.5%分位点をFisher 流の95%信頼区間として用いることができる。また、この区間を近似的に95%推測区間(fiducial interval)として扱って、「真の値は95%の確率で『この』区間の中にある」という強い確率的言明を行うこともできる。そのような変数変換法は、事後分布の歪度がゼロに近くなるようなBox-Cox 変換などを探すことによって見つけることができる。本稿では、北海道のエゾシカの個体数推定を例として、このような推定手順について示したい。

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