2021 年 26 巻 1 号 p. 165-175
水田生態系における生物多様性保全機能の重要性が広く認識されるようになり、水田地域に何かしらの水域を通年維持することの重要性が知られてきている。本研究では福井県小浜市国富くにとみ地区に造成された水田退避溝における魚類群集を報告する。海域に近い本地区の水田退避溝には、純淡水魚だけでなく、回遊魚および汽水・海産魚も生息することが明らかになった。本地区で採捕された魚類は、ドジョウ 565個体、オオシマドジョウ 306個体、ウグイ 132個体、マハゼ 122個体、ウキゴリ 33個体、その他 34個体であった。ドジョウおよびオオシマドジョウ(純淡水魚)は、灌漑期に水田退避溝内で産卵、非灌漑期に降下する(主に産卵場所として利用する)。ウグイ、ウキゴリ(回遊魚)およびマハゼ(汽水・海産魚)は、春季に水田退避溝へ遡上し、夏季から秋季にかけて成長し、産卵前まで居残る(主に成長場所として利用する)。水田退避溝の生物多様性保全機能が確かめられたことから、今後は水田退避溝を複数箇所設け、ネットワーク化を図ることによって、点から面的に本機能を高めることを提案する。