保全生態学研究
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原著論文
1722-2010年にわたる菅平高原の草原面積変遷の定性・定量分析:国立公園内の草原減少の実態
井上 太貴岡本 透田中 健太
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2021 年 26 巻 2 号 論文ID: 2041

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抄録

半自然草原は陸上植物の多様性が高い生態系であるが、世界でも日本でも減少している。草原減少の要因を把握するには、各地域の草原の分布・面積の変遷を明らかにする必要があるが、これまでの研究の多くは戦後の草原減少が扱われ、また、高標高地域での研究は少ない。本研究は、標高 1000 m以上の長野県菅平高原で、 1722年頃-2010年までの約 288年間について、1881-2010年の 130年間については地形図と航空写真を用いて定量的に草原の面積と分布の変遷を明らかにし、 1722年頃-1881年の約 159年間については古地図等を用いて定性的に草原面積の変遷を推定した。 1881年には菅平高原の全面積の 98.5%に当たる 44.5 km2が一つの連続した草原によって占められていた。1722-1881年の古地図の記録も、菅平高原の大部分が草原であったことを示している。しかし、2010年には合計 5.3 km2の断片化した草原が残るのみとなり、 1881年に存在した草原の 88%が失われていた。草原の年あたり減少率は、植林が盛んだった 1912-1937年に速く、 1937-1947年には緩やかになり、菅平高原が上信越高原国立公園に指定された 1947年以降に再び速くなった。全国の他地域との比較によって、菅平高原の草原減少は特に急速であることが分かった。自然公園に指定された地域の草原減少が、全国平均と比べて抑えられている傾向はなかった。草原の生物多様性や景観保全のためには、自然公園内の草原の保全・管理を支援する必要がある。

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