2022 年 27 巻 1 号 論文ID: 2030
生態系を利用した防災・減災( Ecosystem based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)は、人口減少社会における防災インフラストラクチャー整備の考え方として近年注目が集まっている。国内において大面積を占める土地利用である水田が持つ外水氾濫に対する防災・減災機能は、多面的機能の一部として知られ、近年その評価が進んでいる。水田が持つこの機能を最大限に発揮させるために、外水氾濫が発生しやすい場所を事前に特定し、その周辺の水田を保全しておくことは、一つの有効な手段と考えられる。そこで本研究は、令和元年東日本台風において甚大な被害が発生した那珂川を対象に、河川合流という自然地形に注目し、防災・減災機能が高い水田の立地条件および、現状において治水機能が発揮される可能性について検討した。河川合流は自然河川には必ず存在する地形であり、その周辺は外水氾濫が発生しやすく、その氾濫は地域の生物多様性に貢献すると考えられている。令和元年東日本台風の被害情報から那珂川における越水、溢水の発生地点を入手し、ランダマイゼーションテストによって発生地点の空間分布を検討したところ、データ数は十分でなかったものの、合流点の周辺 1 kmの範囲内は豪雨時に外水氾濫が発生しやすい傾向が見られた。続いて、合流点周辺 1 kmにおける現状の土地利用を定量評価したところ、合流点の周辺における水田比率は全域に比してわずかに低かったものの、一定面積が存在していた。さらに現存植生図を用いて合流点周辺 1 kmに成立する植生パタンを検討したところ、外水氾濫に影響を受けていると考えられる湿性植生が多い傾向がみられた。少なくとも那珂川において、河川の合流点周辺の水田を保全することは、外水氾濫の発生時には被害を軽減し、平常時には食料生産、生物多様性保全を実現する等、多様な生態系サービスを期待できると考えられた。