保全生態学研究
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調査報告
四国西南部におけるサンゴ食巻貝の大発生と近年の発生状況
喜多村 鷹也岩井 俊治重松 佑依三浦 智恵美三浦 猛
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2022 年 27 巻 2 号 p. 247-

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抄録

有藻性イシサンゴ類(以下:サンゴ)は、細胞内に褐虫藻が共生するイシサンゴ目に分類される生物であり、熱帯から温帯域にかけての浅海に広く分布する。サンゴは、浅海性生物の種の多様性を支える基盤であり、重要な地域資源でもあるため、保全の対象とされている。サンゴ保全活動の中で問題視されるものの一つに食害生物による食害がある。食害生物として知られるサンゴ食巻貝は、稀に高密度集団を形成してサンゴを食害することで世界各地のサンゴ群集に被害をもたらしてきた。日本におけるサンゴ食巻貝の高密度集団の発生は、 1976年に三宅島で初めて記録された。その後、沖縄県を起点として、黒潮流域に位置する各地で連続的に発生が確認された。四国西南部では、サンゴ食巻貝の一種であるヒメシロレイシダマシ Drupella fragumの高密度集団による食害が確認されて以降、駆除活動が継続的に実施されている。本研究では、四国西南部にて実施されてきた駆除活動にて得られた資料を元にこれまでのサンゴ食巻貝の駆除状況をとりまとめると共に、近年におけるサンゴ食巻貝の発生状況を評価する。また、近年の駆除活動にて採取されたサンゴ食巻貝を種同定し、四国西南部における近年のサンゴ食巻貝の種構成を明らかにすることを目的とした。本海域におけるサンゴ食巻貝の年間駆除個体数は、 2000年頃まで減少の傾向がみられず、高密度集団における食害が継続していたと推察された。 2014年に環境省によって実施された調査にて目立ったサンゴ食巻貝の集団が確認されたのは、足摺地域 63地点中 1地点のみであり大発生の収束が示唆された。また、本研究にて 2014年以降のサンゴ食巻貝の年間駆除個体数および、努力量あたり駆除個体数をとりまとめた結果、共に低い値で推移しており、 2020年におけるサンゴ食巻貝の発生状況は平常と評価された。これらのことから、海域全体を通した大発生は収束したと言える。愛南町で 2015から 2017年に駆除されたサンゴ食巻貝の種組成を調査した結果、ヒメシロレイシダマシの駆除数が全ての年で最も多かった。近年のヒメシロレイシダマシの駆除数の割合は、愛南町で 1991年に本種の高密度集団が記録された際と比べると低下しているが、本種の駆除数は現在もその多くを占めることから、本海域のサンゴ群集保全のためには本種の増減に注視していく必要がある。

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