保全生態学研究
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中国のタンチョウ越冬地「塩城自然保護区」における現状と課題
正富 宏之古賀 公也井上 雅子胡 東宇
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2004 年 9 巻 2 号 p. 141-151

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抄録

中国東部の黄海に面する江蘇省塩城自然保護区において,2003年12月中旬に実施した調査結果を含め,中国におけるタンチョウGrus japonensisn Mullerの越冬状況を総括しておきたい.中国では,従来散在していたタンチョウ越冬地が近年開発により消失したため,塩城保護区へ個体が集まり,さらにその保護区でも1980年代以降の北部と南部の急速な開発により,中央部ヘタンチョウが集結する傾向にあった.調査では389羽を目撃したが,北部で4.1%,南部で17.5%,残り78.4 %を保護区の中央部で記録した.保護区内でも乾燥した内陸は水田・ムギ畑等の耕地に,堤防で囲まれた浅水域は大規模な塩田と養魚場になり,自然採餌場は著しく滅少していた.そのため,これら人工環境下における採餌が多く見られ,人による給餌や観光利用の施策とあいまって,ヒト馴れや集中化を招く恐れを多分に有していた.これは,中国のタンチョウも日本の個体群が現在直面しているような危険な状態へ陥る可能性が高いことを示しており,その阻止のため早急な対応が必要である.一つの方向付けとして,筆者らは湿地開発やヒト馴れを促進する施策を抑制し,越冬群の分散化とそれを維持する地域住民の体制作りを提案した.

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© 2004 一般社団法人 日本生態学会

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