論文ID: 2042
我が国では近年シカ(ニホンジカ)が増加して植生に強い影響を及ぼしている。鳥取県東部はスギ人工林が卓越するが、近年シカが侵入して影響が強まっている。スギ人工林は暗く、下層植物が少ないため、同じシカ密度でも食物供給条件は乏しいことが想定されるが、こういう場所でのシカの食性は調べられていない。そこで本調査ではスギ人工林卓越地のシカの食性と林床植生に及ぼす影響を明らかにすることとした。糞分析により、糞中に占める緑葉の割合が夏( 7-9月)でも 13 -26%に過ぎず、繊維、稈、枯葉など低質な食物が 60 -80%を占めることがわかった。シカ排除柵内外のバイオマス指数を比較するとスギ人工林、落葉広葉樹林ともに林床植生は乏しく、両群落で柵内が柵外よりもそれぞれ 9倍、 39倍も多かった。本調査はスギ人工林卓越地においては林床が貧弱であるため、シカの食性は夏でも低質な食物で占められていることを初めて示した。