論文ID: 2108
海洋や海洋資源の保全及び持続可能な利用は世界共通の目標であり、そのためには海洋について理解や関心を深めるための一般市民への教育が重要である。また人口が減少しつつある地域では、都市などに住みながらも当該地域に愛着を持つ関係人口の育成が課題である。本研究では、全国に先駆けて 1980年代から地元の漁師がアマモ場の再生に取り組んできた岡山県備前市立日生地区にあり、総合的な学習の時間を使い海洋学習を行ってきた市立日生中学校を対象に、全校生徒へのアンケート調査( n = 131)より、生徒の海への態度や保全意欲などを明らかにした。本研究ではアンケート調査のリッカート尺度による項目の分析とともに、自由記述のテキストマイニングや絵の解析も行った。リッカート尺度項目の解析では地域への愛着や地元の海を保全することへの意欲など 9つの項目において、海洋学習を受けた期間を意味する学年ごとの平均値に差が見られなかった。一方、自由回答の分析により 2、3年生は 1年生より海洋学習で学ぶ内容に関する記述(例:再生活動、アマモ)が増えること、また絵の分析より 3年生は 1, 2年生と比較して海の中の生物の豊かさについて描写する生徒が多いことが明らかになり、自由記述のテキストマイニングや絵の解析の重要性が示唆された。なお重回帰分析により地域や地元の海への興味関心及び愛着と日生地区の海に対する保全意欲には相関があることが明らかになった。日生中学校の海洋学習は、生徒に海に関する知識を伝達するだけでなく、地元の人との交流や漁師との協働に力点を置いており、このことが生徒の地域への愛着を深め、海に対する保全意欲を高めること、更に将来にわたって地域に関わろうとする関係人口の育成に寄与していると考えられる。