保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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文献および標本記録に基づく特定外来生物ボタンウキクサの外来性の再検討
山ノ内 崇志
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論文ID: 2231

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抄録

サトイモ科の浮遊植物ボタンウキクサは侵略的外来種として外来生物法の規制対象となっているが、琉球諸島には古い分布記録があり、外来性に疑いが持たれる。文献と標本記録に基づきボタンウキクサの外来性を再検討した結果、最も古い記録として、1854年にC. Wrightによって採集された標本と水田の普通種として記録した手稿が確認された。1950年代までの複数の研究者が、ボタンウキクサが沖縄島から八重山諸島にかけて分布し、水田やその周辺で在来水生植物と共に生育することを記録していた。1950年代以前は複数の研究者がボタンウキクサを在来種として扱っており、一方で外来種とした例はなかった。外来種とした最初の見解は1951年にE. Walkerらが標本のラベル上で示したものであり、1970年代以降に外来種とする見解が一般化したが、科学的な根拠を提示した例はなかった。園芸的な栽培・流通は1930年代に始まって1950年代に盛んになり、1970年代から日本本土での野生化が記録され始めていた。根拠が不十分であるにも関わらず外来種とされた理由として、1) 当時は未発表手稿など古い情報の取得が困難だったことと、2) アフリカ原産とする説など研究者の判断を偏らせるバイアスが存在した可能性が考えられた。以上のことから、琉球諸島に古くから分布していた系統のボタンウキクサを科学的根拠に基づいて外来種と見なすことはできず、最近の分子系統地理学的な知見を踏まえると自然分布の可能性を否定できないと考えられた。この系統は現在、生育地の縮小や、導入された系統との競争や交雑といったリスクにさらされている可能性がある。外来生物法による適切な取り扱いのためにも、分類学的な検討や識別法の確立、現状の把握が必要である。

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