保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
まだ生態学に本格導入されていない統計的因果推論手法の紹介:傾向スコア、回帰不連続デザイン、操作変数法
林 岳彦
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論文ID: 2305

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抄録

要 約:近年、疫学や社会科学では一般的な研究手法の一つとして、統計的因果推論の手法が広まってきている。それらの手法の中には重回帰分析や一般化線形モデルなどを利用した比較的に生態学者が従来用いてきた手法との親和性が高いものもある。しかしその一方で、まだ生態学には本格的には導入されていない手法もある。本稿ではそうした手法のうち、疫学や社会科学系の統計的因果推論では広く使用されている、傾向スコア法、回帰不連続デザイン、操作変数法の解説を行った。傾向スコア法は、複数の背景要因から「処置が割り付けられる傾向性」を表す一つの合成変数(傾向スコア)を構成し、複数の背景要因をそのスコアでまとめて調整することによりバイアスなく因果効果を推定する方法である。保全生態学では、二値的な保全措置の因果効果を推定したい状況など、傾向スコアの使用に適した局面は比較的に多いと思われる。適用できる条件は必ずしも広いものではないが、もし目的と状況がハマる場合には、傾向スコア法は背景要因を一挙に揃えることができる強力な統計的因果推論手法である。一方、回帰不連続デザインは、処置の切り替わりの境界での回帰直線の非連続的な変化を推定することにより、因果効果の推定を行う方法である。また、操作変数法とは、システムの外部から変化をもたらす変数(操作変数)を用いて因果効果を推定する方法である。回帰不連続デザインや操作変数法については、実際に生態学で適用できる状況は比較的稀かもしれない。しかし、こうした考え方は、調査デザインの設定や統計解析方針を検討する際のアイデアの幅を広げるものであり、また実際に適用できた場合には生態学における先駆的な事例として位置づけることができるだろう。

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