保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327

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市町村ができる特定外来生物アライグマの捕獲強化対策-北海道新十津川町の事例
山口 沙耶 角谷 栄政上野 真由美
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論文ID: 2310

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抄録

要旨:特定外来生物に指定されているアライグマ Procyon lotor は、生態系被害や農業被害が全国各地で問題となっており、被害低減を目指した捕獲が行われている。外来生物法に基づく捕獲であっても捕獲の動機は農業被害防止であることが多い。自治体職員には地域の捕獲対策を主導する役割が求められるが、これまでに市町村主導でアライグマを低密度化させた事例は限られている。従って本研究では、外来生物法や鳥獣保護管理法などの既存制度下で行われた捕獲強化対策の効果を評価することで、市町村の担当職員ができる外来種対策の改善の可能性について検討することを目的とした。2019年度から3年間、アライグマの捕獲強化対策が実施された北海道新十津川町を対象に、町で収集されたアライグマの捕獲数やわなかけ日数、捕獲個体の雌雄内訳を整理したところ、捕獲数やわなかけ日数は2019年度以降大きく増加し、2019年度以降の町内のアライグマの生息密度指標(CPUE)は年々減少、2021年度末時点での推定生息頭数は0.840 頭/km2だった。また捕獲強化対策の内容を整理したところ、交付金を活用した捕獲報奨金の導入や貸し出し用箱わなの増量といった捕獲環境の整備、町内のアライグマの生息状況に関する担当職員による調査と防除従事者への働きかけ、町の取り組み等に関する積極的な広報といった3つの活動が行われていた。わなかけ日数の増加には、交付金の導入による貸し出し用箱わなの増量や捕獲報奨金の導入による貸し出し用箱わなの申請者数の増加が寄与していると考えられた。また数値的根拠は明確に得られなかったが、広報による普及啓発にも一定効果があると考えられた。以上のことから、ヒト・モノ・カネ・情報といった町の対策資源を充実させることで地域の個体数を抑制するような強力な捕獲対策になりうることが示された。農業被害防止としての捕獲は、外来種対策全体の一部にすぎない。しかし、本事例のように、自治体の対策資源が充実化すれば地域の捕獲活動を活発化させることができ、根絶への道筋に一定程度貢献することが可能だと考える。今後対策事例の蓄積や共有を進めることで、各自治体が実情に応じた捕獲強化対策を図ることが期待される。

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