保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
神奈川県に定着した特定外来生物クリハラリスCallosciurus erythraeusの地理的由来:台湾を原産とする3系統の混在
江口 勇也佐久間 幹大舩越 優実東 典子嶌本 樹片平 浩孝
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論文ID: 2324

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抄録

要 約:神奈川県では1950年前後にクリハラリスCallosciurus erythraeusが定着し、今なお分布拡大が続いている。その起源には諸説あり、飼育個体の逸脱や伊豆大島を経由した導入が挙げられてきたが、未だ明確な結論は得られていない。そこで本研究では、県内における本種の遺伝的集団構造を明らかにし、地理的由来や分散経路を推察することを目的として、鎌倉市と横浜市および横須賀市において駆除された個体のミトコンドリアDNA cytochrome b(cyt b)領域および調節領域の一部(D-loop)のハプロタイプ組成を調べた。解析の結果、検査した214個体すべてが台湾に由来するcyt bハプロタイプを有していた。さらに、得られた各cyt bハプロタイプに対応する38個体を任意に選抜し、台湾内でのデータが充実しているD-loopの配列と比較したところ、東部系統および東部・南部系統の姉妹グループ(以下、姉妹グループ)に加え西部系統の存在が認められた。鎌倉市では東部系統および姉妹グループが混在しており、従来から有力視されてきた伊豆大島経由の導入およびペットとして飼育されていた個体の逸脱を由来とする可能性が改めて支持された。横浜市ではこれら2系統に加えて西部系統が混在し、さらには東部系統および姉妹グループのハプロタイプ組成も異なるため、鎌倉市とは異なるルートで複数回に渡り人為的に個体が持ち込まれた複雑な導入の経緯が推察された。横須賀市に関しては、鎌倉市と同じ2系統が認められたものの、独自のハプロタイプ組成が見られ、これまで記録されていない未知の導入歴が示唆された。神奈川県ではクリハラリスの更なる拡散を防ぐために分布最前線における積極的駆除が求められており、ソースとなる集団の判別や拡大ルートの推定に対して、今回得られた遺伝情報の有効活用が期待される。

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