保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
DNAメタバーコーディング法を用いて同定された火打山におけるニホンライチョウの主要な採食植物
藤井 太一 南 基泰長野 康之
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論文ID: 2326

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抄録

要旨:ニホンライチョウ(以降、ライチョウ)の分布北限に位置する火打山(新潟県)は、イネ科等植物が急速に繁茂したことによってライチョウの採食植物が衰退しているとされ、環境改善事業としてイネ科等植物除去の効果検証が実施されているが、火打山におけるライチョウの主要な採食植物はこれまで調査されたことがない。そのため、イネ科等植物除去による採食植物の回復、保全効果を検証するためには、火打山におけるライチョウの主要な採食植物を明らかにしておく必要がある。本研究では、2019年5、6、7、10月にライチョウの糞を96サンプル採取し、DNAメタバーコーディング法で採食植物を推定した。ライチョウ生息地で採取された植物136種からなるrbcLローカルデータベースとNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースを用いて相同性検索した結果、40分類群(種レベル32種、属レベル4分類群、科レベル3分類群、目レベル1分類群)が同定できた。シャノン・エントロピー指数による希薄化曲線を構築した結果、本調査期間中の主要な採食植物の98.2%を網羅していると推定された。採食植物として推定された12科のうち最も多く検出されたのは、セリ科(96糞サンプル中の62.5%から検出。以下同様)で、次いでユキノシタ科(53.1%)、ツツジ科(52.1%)、バラ科(50.0%)となった。種レベルでは、イブキゼリモドキ(38.5%)、ベニバナイチゴ(38.5%)、ズダヤクシュ(37.5%)、クロクモソウ(36.5%)、ミヤマハンノキ(30.2%)の順に検出頻度が高かった。他のライチョウの生息地では採食頻度が低いセリ科、ユキノシタ科植物が、火打山では採食頻度が高いという地域特異性が見られた。本調査で明らかになった主要な採食植物は、火打山山頂およびその周辺のハイマツやミヤマハンノキの林縁部やその周辺部に生育する。そのため、これら樹種の伸長や生育地拡大によって主要な採食植物が生育している植生が衰退することは、採食場所の質を低下させる可能性がある。従って、これら樹種の生育を抑制することも、イネ科等植物除去と同時に検討すべき課題と考えられる。

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