論文ID: 2329
要約:イヌワシAquila chrysaetosは、日本国内では個体数の減少と繁殖成功率の低下が顕著であり、絶滅の危機にある。そのため本研究では、繁殖を継続する生息地と消失した生息地を比較することで、イヌワシが繁殖を継続する生息環境の要因を全国スケールで評価した。まずイヌワシの知見を有する全国の鳥類関係者への聞き取り調査及び文献調査により、イヌワシが繁殖していた地点が含まれる全国標準地域メッシュ3次メッシュを36ヶ所集めた。次にGISを用いて、36ヶ所それぞれについて、採餌環境、営巣環境、人為的撹乱に着目した6つの生息地の指標を数値化した。その後、2010年以降の繁殖成功の有無を目的変数、6つの生息地指標を説明変数、地理的なグループをランダム効果として、一般化線形混合モデル(GLMM)を構築した。解析の結果、イヌワシの繁殖の継続と正の関係にあった指標は自然度の高い落葉広葉樹林面積、傾斜の大きさ、主要道路からの距離であり、負の関係にあった指標は林業活動であった。イヌワシの繁殖の継続には自然度の高い落葉広葉樹林や起伏の大きな地形の存在が重要であることが示唆された。したがって、特にこのような景観要素の維持に努めるとともに、これら地域での開発行為や繁殖妨害といった人為的撹乱を抑制する対策を検討する必要があるだろう。
Abstract: The golden eagle (Aquila chrysaetos) is endangered in Japan due to declines in its population size and breeding success rate. To develop conservation measures, we conducted a nationwide evaluation of factors related to golden eagle breeding habitats. We compared thirty-six 1 × 1-km grids containing current or abandoned golden eagle nests nationwide based on avian expert knowledge and the literature. For quantitative analysis, we used a geographic information system to establish six habitat indices representing data on the feeding and nesting environments and human disturbance around the 36 grids. Then, we constructed generalised linear mixed models, setting breeding after 2010 (yes or no) as an objective variable, the six habitat indices as explanatory variables and geology as a random effect. The results show that current golden eagle breeding habitats were positively associated with larger natural deciduous broadleaf forest areas, higher terrain slopes and longer distances from main roads, and negatively correlated with forestry activity. Natural deciduous broadleaf forest and rugged topography were found to be particularly important for the continued breeding of golden eagles. Therefore, it is important to focus on conserving these landscape elements and to investigate measures to control human disturbances such as land development and breeding interference in these areas.
保全生態学研究 (Japanese Journal of Conservation Ecology)
J-STAGE Advance published date: December 1, 2024
https://doi.org/10.18960/hozen.2329
*石川県金沢市鞍月1丁目1番地 石川県庁森林管理課
*Forestry Management Division, Ishikawa Prefectural Government, 1-1 Kuratsuki, Kanazawa, Ishikawa, Japan
e-mail: kshota.akahige@gmail.com
**現所属:一般財団法人 日本気象協会
**Present Address: Japan Weather Association
2023/10/14受付、2024/10/13受理、2024/12/01早期公開(J-STAGE)
著作権は著者に帰属する. Licensed under CC BY 4.0
猛禽類の多くは生態系において食物連鎖の頂点に位置するためアンブレラ種として位置づけられ、その保全は広範囲にわたる生物多様性の保全に貢献し得る(Sergio et al. 2008;Burgas et al. 2014;Senzaki et al. 2015;Santangeli and Girardello 2021)。日本国内では、山岳森林地帯との関わりを深めながら生態を特化させてきた種の一つとしてイヌワシAquila chrysaetos が挙げられる(樋口 2013)。イヌワシは、環境省のレッドリスト2020では絶滅危惧IB類(EN)に選定されており、近い将来における野生での絶滅の危険性が高い状況と考えられている(環境省 2020)。環境省は、1996年に「イヌワシ保護増殖事業計画」を策定し、「本種が自然状態で安定的に存続できる状態になること」を目標として事業を実施している。本事業では、日本国内のイヌワシについて、生息環境の悪化等により繁殖成功率が低下していることを課題として、森林施業を通じた採餌環境の改善等を実施してきた(環境省東北地方環境事務所「イヌワシ保護増殖事業」 https://tohoku.env.go.jp/wildlife/post_75.html, 2024年8月11日確認)。特に、育雛期の成鳥による餌動物の巣への搬入量が繁殖の成否に大きく影響することを踏まえ(Takeuchi et al. 2006;布野ほか 2010)、日本国内のイヌワシの保全策としては、餌条件を改善するための短期的な人工給餌や、営巣地周辺での採餌環境を創出するための針葉樹人工林の伐採等が提唱されていた(例えばOgden et al. 2020)。しかしながら、後述のように、日本国内における本種の生息環境について定量的評価が不足しているため、保全につなげるための科学的知見が不十分である。日本国内では、2013年時点で生存するペア数が241ペアに対し、1981年から2013年までの33年間で99ペアが消失したとされることから、減少傾向が顕著であり、過去に生息していた箇所の多くで繁殖ペアが消失していることが問題となっている(日本イヌワシ研究会 2015)。さらに繁殖成功率は、1980年代には30-50%程度だったものが、1990年代から2000年代には20-30%程度に低下し、2010年代には20%を下回るようになった(日本イヌワシ研究会 2015)。一方で、国外のイヌワシ個体群は、米国西部など一部では減少傾向にあるものの北米全体では減少しているとは言えず(Katzner et al. 2012;Millsap et al. 2013;Crandall et al. 2015)、英国やスペインでも安定傾向にあるという報告がある(López-López et al. 2007;Hayhow et al. 2017)。このため日本国内のイヌワシ個体群の減少は、世界的に見ても特異かつ危機的な状況にあると言える。
イヌワシ個体群存続への主要な脅威として、国内外ともに、直接的な人間活動の影響と採餌・生息環境の悪化の2つが指摘されている。前者の例として、ハンターによる捕獲や密猟、人工物への衝突等に起因する死亡のほか、工事やカメラマンの接近等による繁殖失敗が挙げられる(柴田ほか 1991;Kochert and Steenhof 2002;Watson and Whitfield 2002;Katzner et al. 2012;小澤 2013;須藤 2013)。後者の例として、開発による生息地の改変や人工林の拡大による採餌環境の減少・消失がある(Pedrini and Sergio 2001;Kochert and Steenhof 2002;Watson and Whitfield 2002;Kaisanlahti-Jokimäki et al. 2008;Katzner et al. 2012)。
一方でイヌワシが生息する環境は、日本国内と欧米諸国では大きく異なる。イタリアや英国、北米では森林以外の開放的環境であるのに対し(Kochert and Steenhof 2002;Watson and Whitfield 2002;Sergio et al. 2006;Bedrosian et al. 2017)、日本国内では山岳帯の森林環境である(山﨑 2013)。日本国内に生息するイヌワシは、採餌環境として自然度の高い落葉広葉樹林のほか低木草地、伐採地等の開放的環境を利用するとされている(布野ほか 2010;山﨑 2013;布野ほか 2019)。由井ほか(2005)は、東北地方の北上高地において生息地の植生構成と繁殖成功率との関係を定量的に評価した結果、採餌環境となりうる低木草地、幼齢針葉樹人工林、落葉広葉樹老齢林の面積が大きいほど繁殖成功率が向上し、林齢の高い針葉樹人工林が増えると繁殖成功率が低下すると指摘した。この理由として、イヌワシは低木草地、幼齢針葉樹人工林等の開放的環境のほか、倒木による林冠ギャップによって開空部が生じる老齢の落葉広葉樹林(報告では101年生以上)において餌動物を捕獲しやすい一方、林齢の高い針葉樹人工林では林冠が閉鎖し、餌動物を捕獲しづらいためと指摘している(由井ほか 2005)。日本国内のイヌワシが国外と比較して顕著に減少した主な要因は、自然度の高い落葉広葉樹林の人工林への転換と人工林の高林齢化・成熟が全国各地で進行したことで、採餌に適した開放的環境が大幅に減少し、採餌環境が広域スケールで悪化したためと考えられる(福井県 2001;由井 2007;須藤 2013;Ogden et al. 2020)。
国外では、イヌワシの生息環境を広域スケールで定量的に評価する取り組みが、多数行われており、国土スケールでのイヌワシ保全に役立てられている。例えば英国(McLeod et al. 2002;Whitfield et al. 2007)やイタリア(Sergio et al. 2006)、スペイン(López‐López et al. 2007)、スウェーデン(Moss 2015;Singh et al. 2016)、フィンランド(Tikkanen et al. 2018)、米国(Crandall et al. 2015;Miller et al. 2017;Wiens et al. 2018)では、地理情報システム(GIS)を活用してイヌワシの行動圏内の景観要因を定量化し、広域スケールの生息環境を評価している。これら科学的知見をもとに、広範囲の採餌環境の保全、起伏の大きな地形を含む営巣環境の保全、人為的な迫害・撹乱の抑制などの保全策を充実させている(Watson and Whitfield 2002;Katzner et al. 2012;Crandall et al. 2015;Bedrosian et al. 2017;Hayhow et al. 2017;Wiens et al. 2018)。一方で、日本国内のイヌワシについて、生息環境を定量的に評価した例はわずかである。これまで北上高地での分析(由井ほか2005)があるほか、環境省東北地方環境事務所(2021)によって「令和2年度イヌワシ保護増殖検討会」における【参考資料6】イヌワシの生息適地評価として、全国のイヌワシの生息適地推定の途中経過が公開されている。前者の北上高地の分析では、採餌環境となりうる低木草地、幼齢針葉樹人工林、落葉広葉樹老齢林の面積がイヌワシの繁殖成功にとって重要であるとされた(由井ほか2005)。また後者の環境省の検討会では、岩手、富山、福井・滋賀の3地域での2018年のイヌワシの生息の有無の情報と景観要因(平均標高、開放地面積、植林地以外の森林面積等)を基に解析を行い、草地と岩地の面積率と、森林の林縁長を組み込んだモデルの説明力が高いことを示している。しかしながら、この解析に用いたイヌワシのサンプル数や景観要因の空間スケールなどは不明であり、今後、学術論文等での詳細な分析結果の公表が待たれる。
日本国内のイヌワシが顕著な減少傾向にあり、過去に繁殖していた多くの箇所で消失していることを考えれば、現在も繁殖を継続している生息地は貴重である。さらに、全国の過去の繁殖地において、その後の繁殖の継続の有無を確認し、継続あるいは消失・放棄に至る要因を明らかにすることができれば、国内のイヌワシ保全に大いに役立つだろう。そのため本研究では、過去にイヌワシが繁殖していた箇所の位置情報を収集し、イヌワシが繁殖を継続するために必要な生息環境の要因を全国スケールで評価することを目的とした。具体的には、本州各地のイヌワシ繁殖地の位置情報と地理情報システム(GIS)を用いて、繁殖を継続する生息地と消失した生息地を比較し、景観要因をもとに採餌環境、営巣環境、人為的撹乱の影響を評価した。
営巣情報の収集
2016年9月1日から2022年7月31日までの間、イヌワシの知見を有する全国の鳥類関係者への聞き取り調査及び文献調査(風間 1973;立花 1979;日本イヌワシ研究会・日本自然保護協会 1994;福井県自然保護センター 1995;長野営林局 1995;工藤 1997;澤井 1997;菅家 1998;新治村の自然を守る会・日本自然保護協会 1999;日本鳥類保護連盟 2002a, b;阿部ほか 2003;阿部ほか 2005;青森県環境生活部自然保護課 2006;水上・森 2016;根木 2019)により、本州各地で36ヶ所の、イヌワシが営巣していた地点が含まれる全国標準地域メッシュ3次メッシュ(約1km×1km)の位置情報を集めた(表1)。さらに、繁殖成功率の低下が顕著とされる2010年以降(日本イヌワシ研究会 2015)に着目し、2010年以前に営巣しており、かつ2010年以降も繁殖が成功したことのある営巣地と、2010年以降に観察努力が続けられたものの繁殖成功が確認されていない場所(消失した旧営巣地も含む)とに分けた(表1)。なお、雛が巣立ち、営巣地付近で幼鳥を確認した場合に繁殖が成功したものとして扱った。また、本研究では過去に繁殖していた箇所において、2010年以降も繁殖を継続しているか消失したかを比較しているため、イヌワシが元来営巣しておらず不在である箇所の情報は扱わなかった。
GISによる生息地指標の整理
イヌワシの繁殖に影響を及ぼすと考えられる生息地指標としての景観要因について、国外のイヌワシの保全に係る研究例で重要と指摘されている採餌環境、営巣環境、人為的撹乱に着目し(Watson and Whitfield 2002;Katzner et al. 2012;Crandall et al. 2015;Bedrosian et al. 2017;Hayhow et al. 2017;Wiens et al. 2018)、特にイヌワシの繁殖との関係で重要と考えられる説明変数を6つに絞り込んで選定した。採餌環境に関しては、国内で特に重要とされる自然度の高い落葉広葉樹林と草地等の開放的環境(由井ほか 2005;布野ほか 2010;山﨑 2013;布野ほか 2019)、逆に国内外で不適とされる針葉樹人工林(Watson 1992;Whitfield et al. 2001;由井ほか 2005;Whitfield et al. 2007)の面積を指標に用いた。営巣環境に関しては、国外において起伏の大きな地形近傍を営巣地として選好する報告が多くあることから(Sergio et al. 2006;López-López et al. 2007;Watson et al. 2014;Crandall et al. 2015;Moss 2015;Tikkanen et al. 2018;Wiens et al. 2018)、傾斜の大きさを指標に用いた。人為的撹乱に関しては、山間部への人間の接近の指標として国道・自動車専用道路までの距離と、山間部で行われる人間の活動の指標として林業活動(林業産出額)を用いた。これらの指標を、各営巣地のある3次メッシュ単位で集計した。
具体的には、1)自然度の高い落葉広葉樹林面積、2)草地等の開放的環境面積、3)針葉樹人工林面積については、第6回・第7回自然環境保全基礎調査植生調査報告書(環境省「第6回・第7回自然環境保全基礎調査植生調査」 http://gis.biodic.go.jp/webgis/sc-006.html, 2023年5月7日確認)の縮尺1/25,000植生図データを用いて、3次メッシュの中心から半径10km範囲における自然植生の落葉広葉樹林面積、開放的環境面積及び植林地面積を算出した。なお日本国内のイヌワシの行動圏は、富山県内の調査では2011年の平均面積が168.2km2であり(小澤 2013)、北上高地での生息地選択の研究では暫定行動圏として営巣地を中心とする半径6.4km(約129 km2)を用いている(由井ほか 2005)。一方でイヌワシの行動圏は、地域や環境、個体により差異が大きいことが知られており(Kocina and Aagaard 2021)、日本と同様に森林地帯に生息する北欧の研究では、行動圏が70-580 km2(Moss 2015)や297 km2(Tikkanen et al. 2018)であった。そこで本研究では、これら既往のイヌワシの行動圏についての研究を参考に、営巣期の中心的な行動圏とその周縁部を含む広範囲の環境を評価するため、便宜的に半径10km(約314 km2)の範囲を集計することにした。
自然植生の落葉広葉樹林面積は、凡例の大区分のうち「落葉広葉樹林」、「落葉広葉樹林(太平洋型)」、「落葉広葉樹林(日本海型)」のみを集計し、老齢木の倒木による林冠ギャップが生じにくいと考えられる二次林は除外した(由井ほか 2005;布野ほか 2010)。開放的環境面積は、凡例の大区分のうち「なだれ地自然低木群落」、「岩角地・石灰岩地・蛇紋岩地植生」、「岩角地・風衝地低木群落」、「高茎草原及び風衝草原」、「高山ハイデ及び風衝草原」、「高山低木群落」、「自然草原」、「雪田草原」、「低木群落」、「二次草原」、「伐採跡地群落」、「牧草地・ゴルフ場・芝地」、「落葉広葉低木群落」を集計した。このうち「牧草地・ゴルフ場・芝地」カテゴリーは人為の影響が強い環境である可能性もあるものの、イヌワシの採餌環境として人為的開放地の可能性もあることを踏まえ(山﨑 2013)、開放的環境面積に含めた。また針葉樹人工林面積は、凡例の大区分のうち「植林地」を集計した。「植林地」は厳密には針葉樹人工林と同一ではないが、2017年3月31日時点で全国の人工林面積のうち97%以上が針葉樹から構成されていることを踏まえ(林野庁「森林資源の現況」 https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/genkyou/index1.html, 2023年5月7日確認)、針葉樹人工林の指標として用いた。いずれも単位はkm2で連続値として求めた。
4)傾斜の大きさについては、国土数値情報のうち標高傾斜度3次メッシュ 第2.2版(国土交通省「国土数値情報ダウンロードサイト」 https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html, 2023年5月7日確認)を用いて、3次メッシュ内の平均傾斜(度)を数値化した。
5)国道・自動車専用道路までの距離については、Google Earth Pro version 7.3.6.9345(Google「Google Earth プロのインストールとアンインストール」 https://support.google.com/earth/answer/21955?hl=ja, 2022年12月30日確認)を用いて、3次メッシュ中心部から国道あるいは自動車専用道路までの最短距離(km)を縮尺1/25,000で計測した。
6)林業活動については、本研究で解析対象とした全国スケールで詳細に分析可能なデータが入手できなかったため、都道府県ごとの木材生産による年間林業産出額(農林水産省「林業産出額」 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/ringyou_sansyutu/, 2023年5月7日確認)から算出した指標を代替として用いた。まず、3次メッシュ中心部から半径10kmの範囲に含まれる都道府県ごとに、範囲内面積を各都道府県の総面積で除した比率を算出した。次に、各都道府県について、2010年-2019年の木材生産による年間林業産出額から、2010年代の年あたり平均値(単位:千万円)を算出した。これに上記の比率を乗じて、範囲に含まれる全ての都道府県の値を合計し、これを36ヶ所各所の林業活動の指標とした。このため同一の都道府県内のイヌワシ営巣地では、単位面積当たりの年間林業産出額も同一であるとの仮定をおいた分析となっている。なお、3次メッシュ中心部から半径10kmの範囲に含まれる各都道府県の面積(km2)は、上述のGoogle Earth Pro version 7.3.6.9345を用いて、縮尺1/300,000で計測した。また各都道府県の総面積は、令和5年全国都道府県市区町村別面積調(国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」 https://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/MENCHO-title.htm, 2023年5月7日確認)から求めた。
データ解析
営巣地36ヶ所のデータセットを対象とし、2010年以降の繁殖成功の有無を目的変数、前述の6つの生息地指標を説明変数とし、後述の地理的なグループをランダム効果とする一般化線形混合モデル(Generalised Linear Mixed Model: GLMM)を構築し、各パラメータの推定にはベイズ推定を用いた。ランダム効果は、平均0の正規分布に従うものと仮定し、その切片と標準偏差の事前分布には無情報一様分布を用いた。目的変数は2010年以降繁殖成功している場合に1、繁殖成功していない場合に0の2値を取る変数であったことから、確率分布にはベルヌーイ分布を、リンク関数にはロジット関数を適用した。MCMCのチェーン数は4、繰り返し数は2,000、バーンイン期間は1,000、間引き数は1を指定した。GLMMの実行はR version 4.4.1を用い、パッケージはbrms version 2.21.0を用いてMCMCサンプリングを行った。GLMMの関数は”brm”を用いた。説明変数に用いた6つの生息地指標については、分散拡大係数は1.27から2.01の値であったことから、互いに多重共線性は認められなかった。
本研究で用いた営巣地の情報は本州東北部と本州中部に集中している(表1)。これは日本国内のイヌワシの分布が、近畿、中国、四国、九州で少なく、本州の東北や中部、北陸で多いためである(日本イヌワシ研究会「年度別の調査ペア数と成功率」 https://srge.info/rpt-research/rpt-research2, 2024年4月21日確認)。また、イヌワシの地域ごとの繁殖成功率は、東北地区、関東地区、中部地区、北陸地区それぞれで全く違う傾向を示す(日本イヌワシ研究会「地区別の繁殖成功率推移」 https://srge.info/rpt-research/rpt-research3, 2023年12月28日確認)。このため地域差は、次に述べるように地理的な12のグループとして分類し、一般化線形混合モデルにおけるランダム効果として扱った。なお、本研究では、過去に繁殖していた箇所では、餌動物が十分に存在し採餌がしやすいとともに、適当な営巣場所が存在するといった、イヌワシの繁殖に不可欠な一定の前提条件を満たしていると判断し、地域による傾きは異ならないことを仮定した。
次に、全国のイヌワシを地理的なグループに分類する際の明確な基準は存在しない。このため本研究ではイヌワシが生息する山地帯を基準とし、既往のイヌワシの分布図(環境省 2012)での記載が充実している本州中部の主要な生息地間の離隔に注目した。イヌワシが生息する飛騨山脈と赤石山脈は約60km、赤石山脈と秩父山地は約50km、飛騨山脈と上信越高原は約50km、それぞれ離れている。そのため、これら各山地帯に生息するイヌワシ個体群間の距離を基に、本研究では便宜的に50kmという基準を採用した。すなわち、任意の2つの営巣地に関して、営巣地が所在する3次メッシュの中心間の距離が50km未満の場合を同じ地域グループと見なすこととした。なお、複数の営巣地が連続的に存在する場合には、端にある営巣地とその隣の営巣地の3次メッシュの中心間の距離が50km以上離れていれば、別の地域グループとみなした。この結果、全国の36ヶ所の営巣地は12の地理的グループに分けられた。
さらに12の地理的グループごとに、2010年以降の繁殖継続地点数、繁殖消失地点数を示すとともに、モデリングによりイヌワシの繁殖継続と正もしくは負の関係があると考えられた生息地指標の平均値、標準偏差、一致度を整理した。このうち一致度とは、モデルの回帰曲線で目的変数(イヌワシが2010年以降繁殖を継続する確率)が0.5以上となるか0.5未満となるかで各生息地指標の値を分けた際の、モデルによる予測の分類と実際の繁殖継続もしくは消失の分類が一致した地点数の割合とした。
得られた営巣地36ヶ所のデータセットについて、2010年以降の繁殖成功の有無を目的変数、6つの生息地指標を説明変数とし、地理的なグループをランダム効果として分析した結果、切片、説明変数、ランダム効果のRhatはいずれも1.0となり、モデルは収束した。モデルの事後予測チェックの結果、モデルから生成された乱数による事後予測は本研究の観測データから大きく逸脱していなかった(図1)。また、モデルの適合度について、Bayes R2は0.55であった。
6つの生息地指標のうち、95%ベイズ信用区間が0を含まず目的変数と正もしくは負の関係が示されたのは、1)自然度の高い落葉広葉樹林面積、4)傾斜の大きさ、5)国道・自動車専用道路までの距離、6)林業活動の4つであった(表2)。また、ランダム効果については、事後期待値1.85、標準誤差1.56、95%ベイズ信用区間0.08-5.75であった。
上記の4つの生息地指標について、イヌワシが2010年以降繁殖を継続する確率と、自然度の高い落葉広葉樹林面積(a)、傾斜の大きさ(b)、国道・自動車専用道路までの距離(c)とは、それぞれ正の関係にあり、林業活動(d)とは負の関係にあった(図2)。3次メッシュ中心から半径10km範囲の自然植生の落葉広葉樹林面積は、広いほど繁殖を継続する確率が高くなり、概ね30km2以上になるとその確率が0.5を上回った(図2a)。3次メッシュ内平均傾斜は、値が大きいほど繁殖を継続する確率が高くなり、概ね17-18度以上になるとその確率が0.5を上回った(図2b)。3次メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離は、値が大きいほど繁殖を継続する確率が高くなり、概ね5km以上になるとその確率が0.5を上回った(図2c)。半径10km範囲の木材生産による年間林業産出額は、値が大きいほど繁殖を継続する確率が低くなり、概ね1.5億円以上になるとその確率が0.5を下回った(図2d)。
また12の地理的グループごとに、4つの生息地指標の平均値、標準偏差、一致度を表3に示した。12の地理的グループのうち、4つの生息地指標それぞれについて一致度が50%以上となったグループ数は、メッシュ中心から半径10km範囲の自然植生の落葉広葉樹林面積では11グループ、メッシュ内の平均傾斜では10グループ、メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離では10グループ、メッシュ中心から半径10km範囲の木材生産による年間林業産出額では8グループであった(表3)。
モデリングの結果、広域スケールでは4つの生息地指標がイヌワシの繁殖の継続にとって重要であることが示唆された。正の関係が見られた要素は、自然植生の落葉広葉樹林の面積、傾斜の大きさ、国道・自動車専用道路からの距離であり、負の関係が見られた要素は林業活動であった。
モデリングでは、国外のイヌワシの保全に係る研究例で重要と指摘されていた採餌環境、営巣環境、人為的撹乱に着目してモデルを構築したため、以下、それぞれに考察する。
採餌環境の影響
採餌環境の指標としては、半径10km圏内の開放的環境面積や植林地面積が、イヌワシの繁殖の継続に及ぼす効果は検出されなかった(表2)。一方でイヌワシの採餌行動を観察した国内の先行研究では、伐採地や新規植林地、低木草地といった開放的環境は、イヌワシの採餌環境として利用されるが(由井ほか 2005;柳川・田中 2009;山﨑 2013)、樹冠が閉鎖した針葉樹人工林は採餌環境として不適であると報告されている(由井ほか 2005)。英国においても、樹冠が閉鎖した針葉樹人工林は、イヌワシの採餌に不適であることがわかっている(Watson 1992;Whitfield et al. 2001;Whitfield et al. 2007)。このため日本国内のイヌワシ保全策として、これまで採餌環境の維持や改善を目的に、針葉樹人工林の伐採等によって開放的環境を創出することが重視されてきた(Ogden et al. 2020)。しかしながら本研究による広域スケールでの評価では、開放的環境の正の影響や針葉樹人工林の負の影響が検出されなかった。これらは広域スケールでは影響がないか、あるいは影響があっても広域スケールにおいて樹冠の閉鎖の程度の違いを本研究で評価できていないことに起因する可能性がある。現時点で、森林内の開放的環境や針葉樹人工林の樹冠密度に関する広域的なデータはないが、今後、森林の航空レーザー測量が普及するにつれて、立木密度や樹径、密閉度などの情報を定量的に把握できるようになる。それらの情報を用いることで、より精緻に広域スケールにおける針葉樹人工林についてイヌワシの繁殖環境を評価できるようになるだろう。
一方で、自然植生の落葉広葉樹林については、半径10km圏内の面積が多いほど、イヌワシの繁殖が継続する傾向があった(図2a)。このことは、自然度の高い落葉広葉樹林の維持・保全が、特にイヌワシの繁殖の継続にとって重要であることを示している。現在、日本国内では森林面積の約2割(440万ha)がスギ Cryptomeria japonica (Thunb. ex L.f.) D.Don の人工林であり(林野庁「森林資源の現況」 https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/genkyou/index1.html, 2023年8月11日確認)、1980年代以降、これら植林地の面積の変化は少ないのに対し、自然林・二次林の面積は減少傾向にある(環境省「自然環境保全基礎調査 植生調査(植生自然度調査)」 https://www.biodic.go.jp/kiso/vg/vg_kiso.html, 2024年4月21日確認)。スギ人工林では様々な分類群(鳥類などの脊椎動物、節足動物、植物)の個体数や種の豊かさが、自然林と比較して有意に少ないことがメタ分析によって示されている(Kawamura et al. 2021)。イヌワシの生息地選択や繁殖の継続には、広範囲の多様な餌動物の利用可能性が重要な因子であるため(Nyström et al. 2006;Whitfield et al. 2009;Braham et al. 2015;Moss 2015;Bedrosian et al. 2017)、スギ人工林に比べてイヌワシの餌動物の量及び多様性が大きいと考えられる自然植生の落葉広葉樹林の重要性が本研究で示されたのだろう。したがって、広域スケールでは、自然度の高い落葉広葉樹林を残すことで餌動物を含めた生態系を保全することが特に重要であり、一方で人工林の影響や効果的な管理手法については知見を充実させることが今後の課題であるだろう。
営巣環境の影響
営巣環境の指標としては、イヌワシの繁殖の継続と営巣地近辺の傾斜の大きさが正の関係にあり、3次メッシュ内の平均傾斜角が大きいほど繁殖を継続する傾向にあった(図2b)。平均傾斜角が大きいことは、急峻な谷が多く、起伏の大きな地形であることを示している。北米、英国、イタリア、スペイン、スウェーデン、フィンランドの研究でも、イヌワシは起伏の大きな地形を行動圏として選好することがわかっており(Sergio et al. 2006;López-López et al. 2007;Watson et al. 2014;Crandall et al. 2015;Moss 2015;Tikkanen et al. 2018;Wiens et al. 2018)、上昇気流を利用しやすいなど、イヌワシの営巣に適した環境と考えられている(例えばSergio et al. 2006;Crandall et al. 2015)。さらに営巣環境のみならず、国外では起伏の大きな地形を行動圏として高い頻度で利用することが複数地域の定量的研究で明らかにされており、イヌワシが利用する理由として気流の条件により採餌しやすいためと推察されている(McLeod et al. 2002;Sergio et al. 2006;Miller et al. 2017;Wiens et al. 2018)。よって、地形は2010年の前後で変化はないと考えられるものの、起伏の大きな地形が比較的採餌に有利であり繁殖を継続しやすかった可能性がある。他方、急峻な谷が多く起伏の大きな地形では、開発行為や人為的撹乱の影響を受けづらいため、繁殖を継続しやすいという結果になった可能性も考えられる(例えばMcLeod et al. 2002)。
人為的撹乱の影響
人為的撹乱の指標に関しては、3次メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離が離れているほどイヌワシが繁殖を継続する傾向にあった(図2c)。日本国内の一般国道の道路延長は、1980年には40,212kmであったものが2010年には54,981kmへと30%以上増加しており、高速自動車国道は同期間に2,579kmから7,803kmへと3倍以上に増加している(国土交通省「道路統計年報2020 道路の現況」 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/tokei-nen/2020/nenpo02.html, 2024年8月11日確認)。イヌワシが生息するような山間部を通る高速自動車国道としては、1982年に全線開通した中央自動車道や(NEXCO中日本「E19 E20 E68 中央自動車道 全線開通40年の整備効果」 https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/5682.html, 2024年8月31日確認)、1999年に全線開通した上信越道等が挙げられる(NEXCO東日本「上信越道の概要」 https://www.e-nexco.co.jp/joushin20th/about.php, 2024年8月31日確認)。米国での研究では、特にイヌワシは車両から降りて歩行する人間に敏感であり、生息地への接近のしやすさが繁殖に悪影響を及ぼすことが報告されている(Spaul and Heath 2017)。同様に、イヌワシの生息地選択を英国やスペイン、フィンランド、イタリアで調べた研究では、イヌワシがレクリエーションを含む人為的撹乱の大きなエリアを忌避していることを報告している(McLeod et al. 2002;López-López et al. 2007;Kaisanlahti-Jokimäki et al. 2008;Di Vittorio and López-López 2014;Hayhow et al. 2017)。このため本研究においても、生息地付近の道路の建設あるいは存在が、繁殖の継続に負の影響を及ぼした可能性があるが、そのメカニズムや影響の程度について不明である。今後、個別の営巣地における道路建設前後でのイヌワシの繁殖行動の変化など、詳細な観察調査に基づく評価が必要である。
同じく人為的撹乱の指標として、イヌワシは半径10km範囲の年間林業産出額が大きくなると、繁殖を継続しない傾向が示された(図2d)。このことは、活発すぎる林業はイヌワシの繁殖継続にとって負の影響をもたらす可能性があることを示唆している。本研究での解析結果から、繁殖を継続する確率は、半径10km範囲での林業産出額が約1.5億円を越えると50%を下回ることがわかった。この1.5億円の林業産出額は、単純換算で、50年生のスギ人工林を37.5ha主伐した際の規模に相当する(参照値:50年生のスギ人工林の丸太の販売額は約400万円/ha、林野庁 2024)。ただし、本研究で用いた林業産出額の指標は、都道府県レベルで集計された数値を平均化して算出しており、イヌワシが営巣していた地点周辺の正確な人工林資源の現存量を反映できていない。また、林業活動に影響を与える立地特性(傾斜が緩やかであること、林道整備が進んでいること等)や民有・公有といった所有形態、保全区域指定の有無、樹種や施業方法(皆伐、間伐)等の影響も考慮できていない。このため、広域スケールにおける林業活動のおおよその目安であることに留意が必要である。
日本国内の先行研究では、東北地方での調査から、1 - 2ha程度の小規模疎開地や人工林の列状間伐等による開放的環境の整備が採餌環境の維持を通じてイヌワシの保全に有効とされている(由井ほか 2001;由井 2007)。よって、比較的小規模の森林整備はイヌワシの保全への正の効果が存在する可能性がある一方で、本研究で考慮した広域スケールにおける林業活動については、その規模が活発であると、人為的撹乱としてイヌワシの繁殖の継続に負の影響を与える可能性がある。国外でも、林業やツーリズムといった撹乱行為を10km以上の距離で忌避する例が報告されている(Kaisanlahti-Jokimäki et al. 2008)。
日本国内におけるイヌワシの保全に向けて
イヌワシのように広い行動圏をもつ種の保全には、広範囲での環境保全を考える必要がある(Watson and Whitfield 2002;Katzner et al. 2012)。本研究では全国36ヶ所の営巣地を対象に、イヌワシが繁殖を継続するために必要な生息環境の要因を全国規模で明らかにした。その結果、イヌワシの繁殖の継続のためには自然度の高い落葉広葉樹林や起伏の大きな地形の存在が重要であり、これらの景観要素を保全するとともに、開発行為や繁殖妨害といった人為的撹乱の影響を抑制することが重要と考えられた。ただし本研究では、イヌワシの保全にとって地域ごとに重要性や緊急性が異なる要因(土地利用や開発圧、餌動物の利用可能性の違いなど)や、過去の繁殖地における直接的な繁殖放棄の原因については明らかにできていない。我が国の生物多様性を保全する上で、アンブレラ種であり日本の山地生態系の指標の一つであるイヌワシを保全することは重要であり、今後も地域における詳細なデータを蓄積し、データに基づいた分析と全国的な保全策を進めることが必要だろう。
本研究を行うにあたり、上馬康生氏、白井伸和氏、鈴木卓也氏、南三陸ワシタカ研究会にはデータの提供にご協力をいただいた。放送大学の加藤和弘副学長、東京大学の藤田剛助教、東京都市大学の北村亘准教授、また日本鳥学会2023年度大会でお会いした多くの方々には、解析、考察等にあたり有益なご助言、ご指導をいただいた。また匿名の査読者には、有益なご示唆をいただき、議論を深めることができた。ここに深く感謝の意を表する。
表1.本研究で解析に用いたサンプルの数 本州の各地から、イヌワシの繁殖情報を聞き取り調査及び文献調査により集め、2010年以降の繁殖成功の有無で区分した。
地方 |
2010年以降 繁殖成功あり |
2010年以降 繁殖成功なし |
計 |
本州東北部 | 4 | 7 | 11 |
本州中部 | 13 | 9 | 22 |
本州西部 | 1 | 2 | 3 |
計 | 18 | 18 | 36 |
表2.一般化線形混合モデルの結果概要 6つの生息地指標の事後期待値、標準誤差、95%ベイズ信用区間下限、95%ベイズ信用区間上限、Rhatを示す。
事後 期待値 |
標準誤差 |
95%信用 区間下限 |
95%信用 区間上限 |
Rhat | |
切片 | -4.51 | 4.35 | -13.53 | 4.07 | 1.00 |
メッシュ中心から半径10km範囲の自然植生の落葉広葉樹林面積(km2) | 0.07 | 0.04 | 0.01 | 0.16 | 1.00 |
メッシュ中心から半径10km範囲の開放的植生面積(km2) | -0.06 | 0.06 | -0.19 | 0.05 | 1.00 |
メッシュ中心から半径10km範囲の針葉樹人工林面積(km2) | -0.02 | 0.02 | -0.07 | 0.02 | 1.00 |
メッシュ内の平均傾斜(度) | 0.41 | 0.18 | 0.11 | 0.83 | 1.00 |
メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離(km) | 0.62 | 0.33 | 0.09 | 1.41 | 1.00 |
メッシュ中心から半径10km範囲の木材生産による年間林業産出額(千万円) | -0.42 | 0.23 | -0.99 | -0.07 | 1.00 |
表3.本研究で用いた全国36か所の営巣地情報の地理的グループと4つの生息地指標一覧 12の地理的グループごとに、2010年以降の繁殖継続地点数、繁殖消失地点数を示すとともに、事後期待値の95%ベイズ信用区間が0を含まなかった4つの生息地指標の平均値、標準偏差、一致度を示す。一致度は、モデルの回帰曲線で目的変数(イヌワシが2010年以降繁殖を継続する確率)が0.5以上となるか0.5未満となるかで各生息地指標の値を分けた際の、モデルによる予測の分類と実際の繁殖継続もしくは消失の分類が一致した地点数の割合を示す。Eの2か所の営巣地は、それぞれ本州東北部と本州中部に位置する。
地方 | 地理的 グループ | 繁殖継続 地点数 | 繁殖消失 地点数 | メッシュ中心から半径10km範囲の 自然植生の落葉広葉樹林面積(km2) | メッシュ内の平均傾斜(度) | メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離(km) |
メッシュ中心から半径10km範囲の木材生産による年間林業産出額 (千万円) |
||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均値 | 標準偏差 | 一致度 | 平均値 | 標準偏差 | 一致度 | 平均値 | 標準偏差 | 一致度 | 平均値 | 標準偏差 | 一致度 | ||||
本州東北部 | A | 1 | 0 | 34.21 | - | 100% | 26.70 | - | 100% | 2.00 | - | 0% | 20.90 | - | 0% |
B | 1 | 1 | 113.49 | 42.85 | 50% | 16.95 | 4.17 | 0% | 7.40 | 5.94 | 100% | 29.59 | 0.12 | 50% | |
C | 2 | 1 | 81.48 | 38.06 | 67% | 18.13 | 1.88 | 67% | 8.77 | 0.86 | 67% | 18.17 | 4.28 | 67% | |
D | 0 | 4 | 0.77 | 0.84 | 100% | 18.80 | 4.87 | 50% | 4.20 | 2.47 | 75% | 16.98 | 5.06 | 75% | |
E | 1 | 1 | 45.38 | 19.50 | 50% | 21.75 | 9.12 | 100% | 3.60 | 3.11 | 100% | 22.14 | 10.19 | 0% | |
本州中部 | |||||||||||||||
F | 1 | 1 | 4.83 | 3.62 | 50% | 21.50 | 11.17 | 100% | 0.45 | 0.49 | 50% | 10.44 | 0.15 | 50% | |
G | 0 | 1 | 32.90 | - | 0% | 13.60 | - | 100% | 0.60 | - | 100% | 8.09 | - | 0% | |
H | 4 | 2 | 17.72 | 22.46 | 50% | 15.62 | 7.06 | 67% | 7.98 | 4.30 | 83% | 10.26 | 0.80 | 67% | |
I | 5 | 1 | 43.44 | 24.37 | 67% | 20.23 | 7.52 | 50% | 5.88 | 5.00 | 67% | 7.01 | 4.63 | 100% | |
J | 2 | 4 | 44.07 | 48.81 | 83% | 12.62 | 3.40 | 83% | 6.25 | 3.61 | 33% | 10.05 | 1.72 | 33% | |
本州西部 | K | 0 | 1 | 24.45 | - | 100% | 27.40 | - | 0% | 4.70 | - | 100% | 20.32 | - | 100% |
L | 1 | 1 | 27.50 | 1.91 | 50% | 23.45 | 6.72 | 50% | 4.75 | 5.73 | 100% | 18.38 | 0.99 | 50% |
図1.モデルの事後予測チェックの結果 “y”は本研究で用いた36ヶ所のサンプルによる観測データ、“yrep”はモデルから100回生成された乱数による予測結果である。“yrep”の黒点は予測値の中央値、黒線は範囲を示す。縦軸はデータの出現回数である。横軸は、2010年以降のイヌワシの繁殖の継続の有無を示し、継続であれば1、消失であれば0である。
図2.一般化線形混合モデルの結果得られた2010年以降のイヌワシの繁殖の継続の有無(有:1、無:0)と事後期待値の95%ベイズ信用区間が0を含まなかった4つの生息地指標との関係 繁殖の継続確率を縦軸で示し、生息地指標を横軸で示した。a: メッシュ中心から半径10km範囲の自然植生の落葉広葉樹林面積(単位:km2)、b: メッシュ内の平均傾斜(単位:度)、c: メッシュ中心から国道・自動車専用道路までの距離(単位:km)、d: メッシュ中心から半径10km範囲の木材生産による年間林業産出額(単位:千万円)である。実線は回帰曲線、灰色エリアは95%ベイズ信用区間を示す。また図中の黒色の点は本研究で用いた36ヶ所のサンプルデータを示す。