グリーンインフラストラクチャー(GI)は、生態系を社会基盤(インフラストラクチャー)として計画的に人間社会に組み込み、そこからもたらされる生態系サービスを社会の発展、維持に活用するという考え方である。近年、都市緑地をGIと捉え、それがもたらす副次的な生態系サービスを評価する動きが広がりつつある。本研究は、GIとしての都市緑地がもたらしうる副次的な生態系サービスとして、樹木による汚染物質の吸収を通した大気浄化の可能性に着目し、一般的な樹種の微量金属元素の吸収能力を定量評価した。2022年12月から2023年1月にかけて、東京都立大学南大沢キャンパス内にある松木日向緑地で、シラカシ、コナラ、イロハモミジ、ケヤキの落ち葉を採取し、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて、落ち葉に吸収された4つの微量金属元素(Cd:カドミウム、Cu:銅、Pb:鉛、Ni:ニッケル)の含有量を測定した。その結果、今回用いた手法で分析ができなかったケヤキを除くシラカシ、コナラ、イロハモミジの3種全てが4つの微量金属元素を吸収していることが明らかになった。さらに、微量金属元素ごとに、シラカシ、コナラ、イロハモミジの3種間で吸収能力が異なることが示された。イロハモミジはCd、Cuの吸収能力が高い一方で、対象地における個体数が少なく、葉の量を反映すると考えられる個体のサイズも相対的に小さく、対象地域全体における大気浄化への貢献は限定的と考えられた。一方、シラカシはNiの吸収能力が高く、高木の常緑樹であることから一年を通して大気浄化に貢献していると考えられた。コナラは微量金属元素の吸収能力は限定的である一方、高木の落葉樹であることから、落ち葉の回収、すなわち微量金属元素の除去という面において有利であると考えられた。シラカシ、コナラは調査地域の二次林において優占する樹種であり、微量金属元素の吸収能力および生態的特徴が異なり、大気浄化という観点からの利点、欠点が異なる可能性が高いと判断できた。利点、欠点が異なる樹種が同時に存在していることは、GIとしての都市緑地がもたらす生態系サービスの総量を高めていると考えられた。