抄録
低イオン強度下の骨格筋ミオシンは自己集合してフィラメントを形成し,このミオシンフィラメントを加圧するとゲルを形成することから,加圧処理による食肉加工の可能性が示唆されている.加熱あるいは加圧処理によって得られたゲルはいずれも線維(ストランド)タイプと呼ばれる網目状の構造から成るが,その物性は処理温度や圧力によって異なる.本研究では,その原因を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて解明することを目的とした.AFMにより化学固定処理なしに溶液中にて,ゲルを構成する線維(ストランド)の形態を観察したところ,処理温度や圧力に依存してミオシンフィラメントが側面会合していく様子が観察されたが,ゲル物性の差異を説明できるような変化は認められなかった.そのため,AFMを用いて,個々のストランドの弾性率を測定した.加熱処理では,55 °Cで最大の10.24±1.16MPaを示し,それ以上の加熱温度では弾性率は低下した.加圧処理では,処理圧力の増加に伴って弾性率が増加し,500 MPa で処理した場合,9.80±0.84 MPaを示した.これらストランドの弾性率変化は,ゲル自体の弾性率の変化と一致していた.ミオシンは2つの頭部と1本の尾部から構成されるタンパク質である.これらの部位のいずれの変性が,ストランドの物性に影響を及ぼしているかを同様の方法で検討した.頭部の変性体は処理温度や圧力の増加に伴って弾性率が高くなる傾向にあった.一方,尾部の変性体は,ストランドの場合と同様に,加熱処理では55 °Cで最大の弾性率を示し,加圧処理では500 MPaの処理で最大値を示した.これらのことから,ミオシンフィラメントの加熱ゲルの物性はミオシン尾部の変性に大きく影響され,加圧ゲルの物性はミオシン頭部と尾部のいずれの変性にも影響を受けることが明らかになった.