抄録
ニホンナシ‘幸水’の盛土式根圏制御栽培において,初期導入経費削減の可能性を探るため底面給水の導入を試み,給水水位と給水マットの幅が樹体生育,収量および果実品質に及ぼす影響を検討した.給水水位を催芽期以降地面から−2 cm,−5 cm,−8 cmに一定にしたところ,−5 cmおよび−8 cmは生育半ばから樹体の吸水量が減少し,−8 cmでは満開後91日以降−2 cmの1/2以下の吸水量となり,葉のしおれが観察された.−2 cmは吸水量が多く収量,果実品質が優れた.また,給水水位を−2 cmとし,給水マットの幅を20 cm,50 cm,100 cmとしたところ,50 cmおよび20 cmは生育半ばから樹体の吸水量が減少し,20 cm区は満開後91日以降100 cmの1/2以下の給水量となり,葉のしおれが観察された.100 cm区は吸水量が多く,10 a換算収量6.1 t,果重373 g,糖度12.7%と慣行栽培の2倍程度の多収となったうえ,高品質となることが明らかとなった.さらに,満開後91日から15日間給水水位を−8 cmに下げて盛土をpF2.6程度に乾燥させた後,給水水位を−2 cmにもどして,樹体の必要量相当の給水とすることで,果重を低下させることなく糖度を向上させることができた.底面給水法は点滴灌水法にくらべ,導入時の灌水関係経費を36%程度に抑えることができると試算される.