2012 年 7 巻 p. 49-66
本稿は、これまでほとんど研究の対象として取りあげられることのな かった建築家に照準し、建築家の世界のリアリティに迫る試みである。公的な制度による 裏付けもなく、また、芸術/技術という二項対立を抱え込んだ建築家という難しい立ち位 置の職能の研究は、一面的なアプローチでは立ち行かないことは明らかである。「動的」に 把握しなければ彼らのリアリティに迫ることはできない。そこで、「動的」に把握するため の理念的な枠組みとしてP. ブルデューの「界」概念を援用し「建築家界」というものを理 念的に想定する。そして、その中で建築の本質を賭けて闘争する者として建築家を位置づける。本稿では具体的な事例として、日本を代表する建築家の一人である隈研吾(1954~)をとりあげる。彼のキャリアを1980年代からの第一期、1990年代の第二期、そして2000年代以降の第三期に分け、隈研吾の言説と作品の変容について記述分析を行っていく。