印度學佛教學研究
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インド後期密教におけるヤントラの展開
倉西 憲一
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2016 年 64 巻 3 号 p. 1227-1231

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抄録

ヤントラは,インドにおいて宗教の如何を問わず,古くから作成使用されてきた.インドの宗教においては,ヤントラは特に儀礼の補助あるいはその中心的役割をもった道具として使われている.ヤントラは基本的に線と文字で構成され,幾何学的図形で表されることが多く,その類似性からしばしば対比されるマンダラとは異なり,尊像など絵が描かれることはない.本論文で焦点を当てるインド後期密教のヤントラは,特に息災や調伏といった特定の願望成就を目的とした儀礼で使われていた.インド密教文献史上でヤントラ儀礼が組織的に登場するのは,およそインド後期密教が展開しはじめた9世紀ごろと考えられる.ただし,ヤントラ儀礼はそれ程多くのタントラで取りあげられているわけではない.ヤントラ儀礼を特に重要視し詳しく取りあげているのは,9世紀頃に編纂された『クリシュナヤマーリタントラ』である.そして,おそらくおよそ百年後に登場した『サンヴァローダヤタントラ』にも同じくヤントラ儀礼が説かれており,その文章から前者との密接な関係をうかがうことが出来る.そこで,これら二つのタントラの記述を比較し,インド後期密教におけるヤントラ儀礼の展開を垣間見ることが本論文の目的である.

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© 2016 日本印度学仏教学会
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