2017 年 65 巻 3 号 p. 1164-1170
Saptakumārikāvadāna(SKA)は西暦5世紀から8世紀の間に活動した仏教詩人Gopadattaによって著された,クリキン王の七人の娘の物語を扱った美文作品である.GopadattaはSKAを著すにあたり,大衆部系説出世部の律蔵に伝わる並行話を題材としたと考えられるが,作品中で様々な文体の飾り(alaṃkāra)を用いている.本論は音の飾り(śabdālaṃkāra),特に同音節群の反復技法に注目し,SKAがどのような文学作品の影響のもとで著されたかという問題を考察するものである.
SKAは130詩節からなる.うち同音節群の反復技法が用いられている詩節は八詩節ある.これら8つの用例は(a)yamaka,(b)lāṭānuprāsa,(c)pseudo-yamaka,(d)(a)と(b)の融合形に分類され,それぞれを分析すると,次のような特徴が明らかになる.(1) lāṭānuprāsaの用例がyamakaの用例に比べ多い,(2)この両者は厳密に区別されていない.(3)両者の融合形の用例には正確な同音反復がなされていないものがある.
以上の事実を踏まえると,Gopadattaが詩論家達によってyamakaに関する厳密な定義が与えられる前にSKAを著した可能性が考えられる.しかしSKAの文体の特徴及び韻律の用例から判断しこの可能性は排除される.興味深いことに,SKAに見られる同音節群の反復技法の用例は戯曲作品,特にBhavabhūti(8世紀)のUttararāmacaritaに見られる用例と類似する.同作品に見られる20例の同音節群の反復技巧のうち,僅か5例がyamakaに分類されるのに対し,残る用例は全てlāṭānuprāsa或いはpseudo-yamakaに分類される.以上から,Gopadattaは7–8世紀頃の戯曲詩人達の作品を知っており,彼等が用いた技法をSKAに取り入れた可能性が考えられる.