2019 年 67 巻 3 号 p. 1055-1058
『ブリグとバラドヴァージャの対話』(Bhṛgubharadvājasaṃvāda, Mahābhārata 12.175–185)において,ブリグは,人間存在は五元素からなり,自己は火あるいは風として頭部に存在すると説く.その教説に対してバラドヴァージャは,(1)死に際して火あるいは風としての自我は観察されることはなく,(2)またもし自我が火あるいは風であるとするなら,人間存在の死と同時に自我は五元素に還元されてしまい,自我は消滅してしまうのではないか,と質問する.ブリグはその論難に対して,五元素は,形のあるもの(地・水)と形のないもの(火・風・空)に分類することができ,死に際して火としての自己は風とともに肉体を離れ,空に帰入するのであって,完全になくなってしまうわけではない,と返答する.ブリグの議論は,五元素を形のあるものと形のないものに分け,そして火あるいは風としての自我の死を,火と風が空に帰滅する現象として説明することで,臨終時において自我が認識されないにもかかわらず,死後も存続するという説を擁護しようとするところにその哲学的独創性があることを指摘する.