印度學佛教學研究
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「摂異門分」の構成に関する一考察――『泡沫経』を例に――
中山 慧輝
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2021 年 69 巻 3 号 p. 1066-1071

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抄録

「摂異門分」は,瑜伽行派の基本典籍である『瑜伽師地論』に含まれ,『雑阿含経』を中心とする阿含経典によく現れる同義異語や関連語,定型表現などを集めて,それらの語の意味の違いや区別を説明したものであり,同派が典拠とする経典を探る上でも重要な史料である.一方で,それらの解説はあまりにも簡潔で,経典の比定は難しく,研究はあまり進んでいない.先行研究に拠れば,「摂異門分」は,綱領偈(uddāna)によって計60項目の解説内容を示し,それらを大きく聞思修の三慧の順に列挙する.しかし,隣り合う項目同士のつながりは,その綱領偈だけでは理解することが難しく,それぞれが独立してみえる箇所も少なくない.そこで本稿では,その全体の構成から,具体的な解説内容に視点を移し,解説の典拠となる経典を特定し,その内容を分析することで,個々の項目間の順序にも意図がある可能性を示す.具体的には,「無常・聚沫」の隣り合う二項目の箇所を扱う.「聚沫」の項目は,『泡沫経』を典拠としていることがすでに先行研究によって明らかにされているが,「無常」の項目の末尾で解説する用語も『泡沫経』に見られるものであること,さらに,その解説内容が「無常」と関連することを指摘して,両項目の密接な関係を示すことで,「摂異門分」が綱領偈に示される個々の項目も意図を持って並べている可能性を指摘する.

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