印度學佛教學研究
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ネパールの仏教アヴァダーナマーラーの研究―ŚaṅkarasvāminのDevātiśayastotra,またJayamuniと関連するavadānamālāについて―
岡野 潔
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2021 年 69 巻 3 号 p. 1143-1151

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抄録

ネパール撰述の梵文avadānamālā文献,Subhāṣitamahāratnāvadānamālā (略号SMRAM)の第20章Mālikāvadāna(略号MA)の中に,Śaṅkarasvāmin作のDevātiśayastotra (略号DS)のテクストが,連続的にそのままの順序で借用されていることがわかった.MAの第148~167詩節において,そのDSの全部で21詩節から成るテクストのうちの,最後の第21詩節を除く第1~20詩節が利用されている.このようにDSの梵文詩節を借用したテクストがMAの中に見つかったことは,DSのMichael Hahn (2000)校訂本の改善に役立つものである.ただしMAにおけるDSの梵文詩節の借用においては,局所的に意図的な文の変更(改竄)が見られるので,DSの再校定にあたってその点に注意が必要である.

なおSMRAMの第21章Pāñcālarājāvadānaの中にはṢaḍgatikārikāの第1~104偈が借用されている.このような,SMRAMの第20章と第21章という連続する章の中にアヴァダーナとは全く異質な古いテクストをほぼ丸ごと組み込む編集・製作の仕方は,それらの章の作者がインドの古い梵語の仏教文学作品のネパールにおける保存と普及,教育的な活用に関心があったらしいことを示している.発表者はSMRAMやそれに類する梵文説話集が編集された時代と場所を,17世紀中頃のネパールのPatanと推測する.SMRAMの写本を含めて,ネパール撰述のavadānamālāの諸文献において最も信頼できる梵文の諸写本を筆写した者はJayamuniというVajrācāryaであるが,この筆写師は,ネパールが17世紀に「本格的な紙写本の時代」を迎えた時期において,梵語仏教文学のジャンルにおいて幾つもの重要な紙写本を作成しつつ,「古い仏教説話文学の復興と写本伝承の確立」を推し進めた中心人物であり,「Avadānaśatakaを再話するavadānamālā諸文献」と「インドの梵文仏伝を再話するavadānamālā諸文献」の両方のジャンルの成立にも恐らく密接に関わった,紙写本に依るavadānamālā諸文献の成立運動を解明するための鍵となる人物であると考えられる.

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