2021 年 69 巻 3 号 p. 1173-1177
『法苑義鏡』において,善珠(723–797)は基本的に玄奘(602–664)とその門下の学説に従っている.善珠は玄奘伝来の唯識学にとどまらず,それ以前の南北朝の各学派の学説にも通じる.言うまでもなく,地論教学もその中に含まれている.
善珠は様々な場合で真如に言及しており,その立場は玄奘と唐代唯識学派の解釈を土台にしている.真如と仏性との関係を解釈するにあたって,善珠は『大般涅槃経』・『究竟一乗宝性論』のタイトルにあまり言及していないにもかかわらず,これらの諸経論から確かに影響を受けた.これより見れば,奈良時代の日本法相宗の学僧として,善珠の真如理解は玄奘とその門下の学説の枠を超えたと言えよう.