2021 年 69 巻 3 号 p. 1165-1172
本稿では,竺法護訳『普超三昧経』における異読の共有状況にもとづいて,日本古写一切経諸本の相互関係を探ることを試みた.本稿で主たる検討対象としたのは,聖語蔵経巻(唐経),中尊寺経,石山寺一切経,興聖寺一切経,七寺一切経の五種の日本古写一切経である.加えて,比較のために,参照可能な版本大蔵経諸本も用いた(略号一覧参照).
まず,異読の共有状況から,上記の五種の日本古写一切経がひとつのグループを形成していることが確かめられた.さらに,それらの間での近接関係については,異読の共有状況からは,中尊寺経と七寺一切経との間に近接関係があったと見ることができる.ただし,七寺本については,後世の手によって,別本を参照して修正された痕跡が確かめられた.一方,石山寺本については,版本大蔵経を参照した痕跡が見られ,同本が書写された年代も考慮し,また,その異読から類推すると,当時参照可能であったと考えられる開宝蔵を参照したものと推測できる.
以上の検討結果をもとに,『普超三昧経』に関して,日本古写一切経諸本に焦点を当てた大蔵経諸本の系統図についても掲げた.