印度學佛教學研究
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近代日本における日蓮信仰の諸相
三輪 是法
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2021 年 69 巻 3 号 p. 1184-1190

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抄録

この研究は,日蓮仏教が信仰者に与える心理的影響を考察するために,近代日本における日蓮仏教の信仰者一人一人にスポットを当て,調査考察を試みようとするものである.今回は,京都駅前に建つビジネスホテル・法華クラブの創業者である小島愛之助を取り上げた.彼は法華倶楽部を創業する以前,「宇都宮太郎」という芸名で,日蓮の生涯を庶民に広めるための「統一節」なる講談を全国各地で興行していた.本稿では,小島の生涯において,大正年間の日記に確認できる,入門・巡行の生活,玉雄との結婚,長男の誕生,次男の早世,という4つの出来事に焦点を当て,彼の信仰の特質について考察した.

小島愛之助は明治17年(1884)兵庫県に生まれ,大正元年(1912)に統一節と出会う.統一節とは日蓮の生涯を節とともに読み上げていく講談で,講談師「宇都宮主計之助」,本名妹尾朔によって創作された.小島は妹尾を師とし,宇都宮太郎の名前で布教の日々を送る.妹尾について巡講の旅に出るようになると,小島の日蓮信仰が深まりを見せる.当初は統一節という芸能に魅了されていたが,日蓮遺文に触れて日蓮への理解が深まると,日蓮仏教の布教のため,その責務を果たすべく行動するようになっていく.

小島は,常に使命感に基づいて行動していたと考えられる.それは,日蓮仏教を広宣流布するための統一節であり,法華倶楽部創業であり,立正活映株式会社の設立であった.その使命感を強化するもの,換言すれば小島を信仰へ導くものとして,妹尾朔によって執筆された日蓮伝があり,日蓮の生き方が規範となって,彼を突き動かしたといえるであろう.

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