印度學佛教學研究
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不合理なる改変――Yājñvalkyasmr̥tiにおける未顕現からの世界創造――
近藤 隼人
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2021 年 69 巻 3 号 p. 995-1000

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抄録

Yājñvalkyasmr̥tiは5–6世紀頃に最初に編纂され,9–10世紀頃に現行の「流布版」が再編集されたものと推定されている.両版テクストの差異は,ヴィシュヴァルーパ(Viśvarūpa, fl. 800–825)註Bālakrīḍāと,流布版に対するヴィジュニャーネーシュヴァラ(Vijñāneśvara,12世紀)註Mitākṣarāやアパラールカ(Aparārka,12世紀)註Yājñavalkyasmr̥tiṭīkā等との間に見て取れ,ヴィシュヴァルーパの伝えるテクスト(YSB)が原型に近いものと考えられている.しかしながら,その再編集がいかなる過程を経て行われたのかは不分明である.本稿においてはその一端を解明すべく,サーンキヤ的術語を用いつつ未顕現(avyakta)からの世界創造を説くYājñvalkyasmr̥ti第三巻の一節を対象として,その両版テクストの差異に焦点を当てる.

Yājñvalkyasmr̥ti 3.180では未顕現から統覚(buddhi),統覚から自我意識(ahaṃkāra)が展開するとされるが,自我意識からの展開物についてYSBは五元素とする一方で,流布版はタンマートラ(音声・感触・色・味・匂い)とする.これに続く,その展開物の性質の逓増(3.180d),性質が音声などであるとする記述(3.181)を考慮すれば,流布版テクストは意味を成さず,YSBこそが正当なるテクストと判ぜられる.自我意識からの展開物をタンマートラとする見解は,Sāṃkhyakārikāに代表される古典サーンキヤ体系に属するものであるが,Yājñvalkyasmr̥tiの改変者は文脈を考慮せずに当初の編纂後に一般化した古典サーンキヤ体系を採用したという可能性が想定される.

また,「未顕現」の指示内容について,Yājñvalkyasmr̥tiの想定する世界観は,Carakasaṃhitā第四篇Śārīrasthānaと基本的に合致するため,これはアートマンを指示するものとして解されうる.未顕現に関するこの用法はMahābhārata Mokṣadharma篇等によっても裏付けられるものであり,根本原因(pradhāna)と解する流布版諸註とは一線を画している.以上の点は,Yājñvalkyasmr̥ti当初の編纂に際して初期サーンキヤ思想が参考に供されていたという推測を根拠付けるものとなる.この点からは,Yājñvalkyasmr̥tiが最初に編纂された当時はSāṃkhyakārikāが存在していなかったか,あるいは存在していても大きな影響力を及ぼすほどではなかったという可能性が導き出される.

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