2023 年 71 巻 3 号 p. 1140-1144
本稿では,法華験記において神祇の登場する説話に対して,どのような神仏習合理論の影響があるかを検証した.神仏習合理論は,護法善神説,神身離脱説,本地垂迹説の三つに分けられる.まず,奈良時代に,護法善神説と神身離脱説が広まる.護法善神説では,神は仏法を保護する護法神とされる.一方,神身離脱説では,神は衆生と同様,迷える存在であり,受苦の身を脱するため仏法の力により救われるとされる.平安時代になり,本地である仏・菩薩が衆生を救済するために神として現れるとする,本地垂迹説が登場し,徐々に神仏習合理論の主役となる.
検証の結果,社格の高い神には,護法善神説が適用されている一方,社格の低い神には,神身離脱説が適用されていることが確認された.本地垂迹説については,その影響を受けた説話はなかった.しかし,同一の神祇に,護法善神説と神身離脱説の二つの理論が適用されていることもあり,神の分類は,単純ではなく,多層的である.