米国ではさまざまな野心的な試みが医療の分野で積極的に行われている.それぞれを表現する「補完代替医療」「統合医療」「テレメディシン」「精密医療」などのキーワードから,それぞれの内容の一端を推測することができるが,相互の関連性や全体としての流れを大きく捉えるのは容易ではない.実はもうひとつ,あまりに常識的でありふれて聞こえるためにわが国では注目されることが少なかった米国医療の近年のキーワードに,「患者中心の医療」がある.本稿では「患者中心の医療」の歴史と実態を手がかりに,米国の医療の近年の動向を包括的に解説することを試みる.現在米国で進められている「患者中心の医療」こそ,これまでの医療のパラダイムを大きく変えうる革新的なものであり,「米国流の全人的医療」とでも呼ぶべきもののように思われる.