抄録
筆者らは状態遷移テーブルにより符号化/復号処理が記述できる簡易型算術符号としてSTT-coderを提案しており,レジスタ長6ビット,確率状態8状態(MPS確率が0.5から0.987の範囲での理想符号化効率が約0.99)という条件下で通常の算術符号に対し静的符号化効率の低下はMPS確率が低い範囲では0.5%程度に留まり充分実用的であることを示した.本論文ではSTT-coderの確率推定(確率の学習)問題について考察し,状態遷移型確率推定を前提とした上で,これまでの課題であったLPS確率が0.5付近での性能低下の原因を究明し,符号化性能を情報源のLPS確率に対し,よりフラットにする効果を有する遷移LPS比率の概念を新たに導入した.確率状態8状態での理想符号化を前提として動的性能を解析したところ,遷移LPS比率の導入により最低符号化効率は導入前より約2%向上した.確率状態の区分は8種類のまま,さらに遷移の過程を示す1ビット情報を追加した16状態化を行うことで動的性能は約4%向上することが示された.参考のためにMQ-coderでも同程度の情報源範囲に対応する22状態版を作成し比較したところ,STT-coderは静的符号化効率の理想算術符号からの低下0.5%を見込んでも少ない状態数で符号化効率は平均的に約1.5%上回り,従来方式に対する動的性能の改善が確かめられた.