2003 年 13 巻 3 号 p. 3_87-3_101
近年では長期入院の解消によるコスト削減を図るため,平均在院日数の短縮化が国の政策的課題になっている。平成14年4月の診療報酬改定でも,いわゆる急性期病院の平均在院日数要件は,従前の20日から17日以内になり,将来的に14日以内にまで短縮されることも検討されている。米国においても早期退院は政策的課題であり,特に診断群別定額払い方式(DRG)導入後,その傾向は強まっている。DRG導入前後に大腿骨骨折の入院患者について調査が行われたが,入院日数,入院中の理学療法の回数が減少した一方,機能回復度も低下したことが報告されている。我が国においても高齢化の進展に伴い大腿骨骨折の患者が増加している。しかし,大腿骨に関する費用効果分析では,早期退院が最優先されるため,完治して退院させることは次善の問題になっていると指摘されている。
本論文では,大腿骨頚部骨折で入院し,人工骨頭置換術を行った患者のデータを用いて,在院日数が歩行能力に対してどのような影響を与えるかを順序プロビット・モデルによって実証的に検討した。さらに,在院日数以外にどのような因子が治療成果に影響を及ぼすのかについても検討した。その結果,在院日数は,歩行能力に正の影響を与えるが,影響の大きさは,患者の属性に依存した。また,歩行能力の改善に関連があると認められたのは,入院時歩行レベルの他,痴呆症状,術後感染症,退院先に関する変数であった。