抄録
1990年代の半ばにすでに高齢化社会から高齢社会に到達した先進各国では,高齢者介護は,単に福祉の領域だけに限られた問題ではなく,国民的な課題として社会的,経済的に深刻な問題になった。わが国でも,この問題を解決するべく,2000年4月1日から「介護保険制度」が施行されたが,その設立にいたる過程(1990年代)から,「介護」をめぐって,さまざまな研究がなされるようになってきた。本論文では,わが国における「介護」を「高齢者ケア」と定義し,これに関して,経済学の手法を用いて分析を行った論文を調査した。その結果,「介護」については,大きく分けて3つの問題意識があることがわかった。その問題意識を基に,「高齢者ケア」に関する論文を「財の性質」,「需要側」,「供給側」の研究に分類した。しかしながら,現在においては,「高齢者ケア」分野の研究は,まだ経済学的に分析したものは少なく,多くの研究が実態調査の形式を用いている。今後は,介護保険発足後,蓄積されている多くのデータを用いた経済学的分析が期待される。