2012 年 22 巻 1 号 p. 41-55
本研究では,家族や地域とのつながりが,社会保障制度に対する知識とどのように関連しているかについて,アンケート調査の個票データを用いて検証を試みた。
分析結果によると,「家族・親戚から受ける支援」や「地域との結びつき」の程度が高い者ほど,「子供の医療に対する地方自治体の公的助成制度」や,「公的医療保険料の金額」,「自らが加入している公的医療保険の種類」について適切に把握する傾向が見られた。
また,回答者の社会保障制度(公的医療保険制度)に対する知識と主観的な健康感との間には一定の正の相関が確認されるため,制度の諸効果を十分に発揮するためにも,その制度の内容が広く国民に周知されることの重要性が示唆された。
現在,市町村国保においては,医療保険料を滞納する世帯の割合が増加傾向にあるが,その原因の一部には,「高額療養費制度」や「医療費減免制度」の存在など,負担を緩和する様々な制度に対する十分な知識を持っていない人々の存在が挙げられる。現状では,社会保障制度に対する知識量は,自身の家族がどれだけ制度に詳しいか,あるいは地域のネットワークにどれだけ恵まれていたかに依存する側面がある。人々の制度に対する知識量に偏りが生じないように,学校等の教育現場などで,社会保障制度の仕組みについて,より体系的・網羅的に説明するプログラムを整備するなどの方策が求められる。