医療と社会
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情報技術によって大変身をとげるアメリカ製薬業界
石倉 洋子
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2000 年 10 巻 2 号 p. 1-74

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抄録
2000年初頭,アメリカのヘルスケア業界には,遺伝子研究の急速な進展,インターネットによる医療情報の提供,オンラインによる医薬品の販売など,数々の新しい動きが見られる。製薬業界においても,情報通信技術の急速な発展に伴い,研究開発から販売までのバリューチェーン全体を持つ研究開発指向の大企業だけでなく,バリューチェーンの一部に特化した専門企業も多数出現している。大企業の中にも,HTSなど高度化した情報技術を研究開発に駆使したり,最近解禁された消費者への宣伝広告・ウェブサイトを活用して新薬を上市するなどの方法を積極的に取り入れる企業も出始あている。これに加え,90年代半ばに見られた,川下の流通機能を取り込む垂直統合やジェネリックへ進出するなどの水平統合の動き,特化型企業との提携やアウトソースを積極的に活用する動きも現れている。さらに,1990年代はじめに比べると,その重要性を一段と増した「規模」の実現をめざして,大企業間でも国境を超えた買収・合併が繰り返され,業界再編が進みつつある。本研究では,医療用医薬品を中心に,研究開発から販売まで全体を統合する大企業を中心プレイヤーとしてアメリカの製薬業界を概観し,企業の戦略や実績を説明する。また,製薬企業を巡る医療サービス提供者,患者,支払い側,政府,流通チャネルなどの主な動きを示す。その上で,製薬企業のバリューチェーンの変化と最近力を持ってきている専業企業の動きを,製薬企業への影響という観点から説明する。
次に, 世界の製薬業界においてアメリカ製薬業界が果たす役割を, 「リードカントリー」, 「クラスター理論」,「ダイヤモンドモデル」の観点から分析する。
まず,製薬業界のグローバル度をマーケット,コスト,規制,競合の観点から分析し,アメリカの製薬業界をグローバル化の先導となるリードカントリーとして位置付けている。それから,情報技術が革新し,時間や距離の意義が薄れたといわれるグローバル化の時代にあって,優れた企業はある地域に集積するという「クラスター」理論の観点から,アメリカの製薬業界を捉え,収益性,イノベーション,新規事業の誕生というクラスターの指標に沿って分析を進あている。さらにクラスター形成のメカニズムを解き明かす「ダイヤモンドモデル」を用いて,アメリカの製薬業界が今日の隆盛を遂げた背景を,需要条件,要素条件,関連・支援業界,企業の戦略・ライバル関係と政府の役割から解明している。
最後に,ヨーロッパ企業の最近の動きなども押さえながら,クラスターとしてこれだけの力を持ってきたアメリカの製薬業界が,日本の製薬企業の戦略へもたらす意味合いを考察する。
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