抄録
本研究は,医薬品市場に及ぼす人口要因の大きさを測定するとともに,診療報酬等の医療政策の影響を考慮し,将来の医薬品市場規模を予測することを目的としている。1982年から96年の14年間においては,人口要因とその他の要因に大別すると,人口要因の影響が極めて大きく,医薬品支出の増加に対し,その9割弱を説明し得る要因であることが判明した。また,人口要因以外の要因をすべて一定と仮定した時の将来の市場規模を算出すると,2000年には,1996年に比し1割弱,2005年には2割,2010年には3割弱の増加が予測された。つぎに単純な経済モデルを用いて,基準薬価の変更が薬剤支出に与える影響を分析し,モデルに基づいた実証分析を試みた。その結果,基準薬価を10%引き下げたとき, 薬剤の使用密度が6.6 % 上昇するため, 医療保険からの薬剤償還額は3.4%しか減少しないことが明らかとなった。この推定結果を用いて,現行基準薬価を前提としたシミュレーション予測を行うと,薬剤支出は人口動態のみを考慮した予測増加率よりも0.7%程度大きくなる。また,薬剤に対する支出の成長を,1%程度と考えられる経済の潜在成長率の範囲内に抑制するためには,毎年2%から3%の引き下げといった厳しい薬価基準の継続が必要となる。