抄録
この論文の目的は,自己負担制度が外来医療サービス需要に与える抑制効果を高齢者医療の側面から検討することである。現在の老人保健制度において,高齢者はある定額を支払うと自由な診療を保障される定額自己負担制を採用している。この定額自己負担の改定による受診抑制効果は高齢者医療サービス需要の所得弾力性に依存しており,医療サービス・エンゲル曲線推定によってその性質を検定した。エンゲル曲線の推定結果から高齢者医療サービス財は明らかに必需財,すなわち非常に小さい所得弾力性しか持ち得ず,新たに定額自己負担を設定することによる外来医療サービス需要の抑制効果は小さいと言える。今後導入が検討されている定率自己負担制とは,高齢者が外来医療サービス価格の一定割合を窓口で支払う制度である。この定率自己負担の改定による受診抑制効果は高齢者医療サービス需要の価格弾力性に依存しており,65-69・70-74歳年齢別外来医療費と65-69・70-74歳年齢別外来受療率を利用した高齢者外来医療サービス需要関数を推定した。需要関数の推定結果から高齢者医療サービス需要の価格弾力性は-0.105~-0.085(一件あたり外来日数),-0.125~-0.076(外来受療率)であり価格弾力性もまた小さく,定率自己負担制に移行したとしてもその抑制効果も小さいと言える。よって高齢者医療において,自己負担制度が受診行動に与える効果は限定的なものと考えられる。