抄録
本稿は,環境経済学等で最近,急速な発展を遂げているCVM(Contingent Valuation Method:仮想市場法)を,医療技術の経済評価に応用し,その手法の妥当性・適用可能性を考察した。具体的には,環境政策における先行研究でしばしば観察されているWTP(Willingness to pay)とWTA(Willingness to accept)の乖離に着目し,まず,乖離をMorrison(1997,1998),塚原・竹内( 2 0 0 0 ) が用いた手法を用いて所得効果と賦存効果に分離した。た手法により,賦存効果をさらに様々な要因に分解して詳細な検討を行った。その結果,(1)これまで賦存効果とみなされていた部分には,想定的バイアスや補助金バイアスなどが影響しており,賦存効果自体はそれほど大きくない,(2)WTPとWTAとも同程度の大きさのバイアスが存在している,(3)そのバイアスを取り除けば,WTPとWTAの乖離額は極めて小さくなることなどが示された。
したがって,CVMを用いて医療技術の評価を行う際には,様々なバイアスの存在を前提に慎重な評価を行うべきであり,現段階では,WTPとWTAの両者を計測してそのレンジをみるのが安全であると思われる。また,この手法を医療経済分野に広範に実用化するには,「バイアスの除去方法の開発」が避けられない課題であろう。その際,本稿で考案した手法も一助になる可能性がある。