抄録
国際的な医療費の差異は主としてGDPの差異で説明できる。1977年のNewhouseの論文もGDPの大きさの差異によって医療費の国際間の差異を説明できることを示した。また,GDPの係数から,「医療費の対GDP弾力性は1より大きい」という結果を得ている。これは医療サービスは必需品ではなく,奢修品であることを示している。この論文の発表により「医療費の対GDP弾力性は1より大きい」ということが実証されていく。
これを検証した研究は大きく分けて3つに分類できる。一つは医療費とGDPをドル表示に何で変換するのかによって,結論が異なることを示した研究である。変換には為替レート,購買力平価,医療の購買力平価が用いられている。二つ目は説明変数に1人当たりのGDPだけではなく,その他医療費に影響を及ぼす変数を加えて推定した研究である。三つ目はOECDの単年度のクロスセクションデータではなく,国々の時系列データをプールしてデータを増やした研究である。これらの先行研究では医療費の対GDP弾力性は1より大きいことを示したものが多い。
この論文ではOECDの時系列データをプールしたデータを用いて推定を行っている。それによりパネル推定法が採用された。プールしたデータが使用されることによって,各国の異質性をコントロールすることができ,データ数も先行研究よりも増やすことができる。また,推定方法もより適したものがとられている。
推定式はGDPだけが説明変数のものと,GDPのほかに高齢化率を加えたものの2種類あり,それらが推定されている。サンプル数を多くするために今回は高齢化率以外の変数を含あることはしていない。推定結果によれば,医療費の対GDP弾力性は何でドル表示に変換されるかに関わらず,また説明変数に高齢化率が加えられるか否かに関わらず,有意に1より小さいことが示されている。この結果は先行研究とは異なったものとなった。