医療と社会
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「自己決定型医療」の問題点と実現に向けての提案
田村 誠
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1996 年 6 巻 3 号 p. 109-122

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抄録

本稿では,「自己決定型医療」の問題点を整理した上で,その解決の方向性を模索し,さらに一つの具体的提案を示した。
1.問題点
患者側の問題として,医療者の説明の理解困難さ,医療者への遠慮等が考えられた。医療者側の問題としては,説明の時間不足,開示データの不足,自己決定の範囲に関する患者との認識の相違,医療者のモラルダウンが考えられた。また,自己決定型医療の進展を通じて個の尊重が一層進むことにより,サービスの一律化を余儀なくされる社会保障制度との齪齬が危惧された。
2.問題解決の方向性
5つの方向性を示した。第1には,現行の医療では「口頭」によるコミュニケーションスタイルが一般的であるが,それに加えて,「文書」による情報提供を行い,患者の自己決定サポートを行うというものである。第2には,患者に開示するためのデータ蓄積を行政や学会主導等で行うことである。第3には,医療者一患者間で,自己決定を行いたい範囲について食い違いが生じる可能性についての研究蓄積,および医療者に考え方の転換が求められることである。第4には,医療者と患者の価値観をできる限りマッチさせるために,医療機関が治療方針を明示し,医療に関わる価値観を市場セグメントのキーとしたマーケティングを行うことである。第5は,ここまでの解決の方向性のほとんどすべてに共通して,医療機関,医療者個々の努力に委ねるだけでなく,制度上の対応が必要という点である。
3.一つの具体的提案
上の5 つの方向性のうち, 1 番目, 2 番目と最後のものを主に含め, 具体的提案を検討した。その概要は以下のとおりである。
情報開示,および患者側(家族含む)の意思決定のステップを一連の診療プロセスの中で明確に位置づけるべく,特定の治療法(手術,投薬等)・検査法について,その効果,副作用,リスク等を記した文書を,治療・検査実施前に患者に手渡し,それを充分に吟味した上で,患者がその治療・検査実施を承諾するステップを確保する制度を公に創設し,かつ,それと診療報酬制度等との関連性をもたせるもの,である。

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