医療と社会
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医療技術・保健政策の経済的評価の理論的背景に関する文献的考察
橋本 英樹
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1998 年 8 巻 1 号 p. 53-65

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抄録
本稿では,医療技術・保健政策の経済的評価の理論的背景や倫理的問題に関する文献的考察を行い,筆者なりに論点の整理を行うことを目的としている。
まず最初に,分析単位である「効用」について触れ,現状で「効用」は少なくとも3つの理論に由来し,それぞれ「効用」の異なる測定方法を要求していることを整理する。異なる方法で測定された「効用」量の相関関係については,実証主義的二元論と相対論の2つの科学哲学的立場により,異なった解釈がされうることを指摘し, 後者の立場から, 「効用」の測定にあたっては, 背景理論が前提とする世界観や人間観を明確に意識することが重要であることを主張する。次いで,個人効用と社会的効用の関係について触れる。3つの学派の存在を指摘した後,それぞれ個人効用と社会的効用の関係をどのように認識しているか整理する。第三に「効用」を用いた「功利主義的」分析をめぐる,これまでの倫理的議論について論点を整理する。この問題は,誰が何について効用値を決定するのかという政治的問題と関連し,先にあげた3つの学派により,異なった主張がされている。第四に,経済的評価では,医療・保健政策の社会的到達目標は大別して厚生最大化と健康量最大化の2つの立場に分かれるが,それぞれにつき問題点や暗黙の前提となっているイデオロギーにっき筆者の私見を展開する。
最後に,以上の議論を踏まえて,医療技術・保健政策の経済的評価研究においては,分析手法・理論は研究の目的や対象によって意識的に選択される必要があること,各研究者が前提とした条件を明確に認識しつつ,なぜ特定の手法や理論が選択されたかについてオープンな議論を展開する必要があることを提言する。
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