1998 年 8 巻 3 号 p. 115-125
この論文の目的は,健康が高齢者の就業行動に与える影響を分析することにある。実証分析を進める上で自己評価による健康指標にはいくつかの問題がある。多くの研究で使われている健康指標は,個人による自己評価である。全く同じ健康状態でも評価は個人間で必ずしも一致しないから,健康の自己評価には個人の特性が反映されていると考えられる。また,仕事の内容によって健康の影響は異なる。これまでの研究では就業するかどうかの二者択一に重点が置かれていて,職種ごとに健康の影響が変化することは考慮されていなかった。この論文では労働省『高齢者就業実態調査』のマイクロデータを使った60歳から69歳の男性の高齢者の就業についての多項ロジット分析から,次の結論をえた。健康指標が健康状態の悪化を示すほど就業確率が減少し,年金を受給するほど就業確率が減少する。この一方で,職種別では健康状態の悪化は自営業よりも一般雇用に大きく影響すること,年金受給額の増加が就業を抑制することも確認された。今後は職業による健康水準の違いが,指標の作成方法によるものなのか,あるいはその他の要因によるものなのか慎重に検討する必要がある。