抄録
末期進行大腸癌の延命効果向上のために, 昭和50年12月末までの5年間における切除不能大腸癌57例に検討を加えた.
1) 切除不能大腸癌は男子に多く, 70才以上の高令者に多い. 癌の占居部位別では直腸, S状結腸, 盲腸に多い.
2) 平均病悩期間は5.8ヵ月で切除例よりも長く, 初発症状は便秘, 下痢などの便通異常を訴えるものが多く, 切除例における排便時出血, 下血が多いのに比して対照的である.
3) 外科処置後の予後は造瘻術が良好であり, 腸吻合術は不良である.
4) 術後治療における化学療法の1年生存率は25%である. 放射線療法には36カ月の生存が1例に認められた.
5) 術後の化学療法はMMC, 5FUを中心に行われたが, 単独療法よりも多剤併用療法の成績がすぐれており, 投与法は動脈内注入法に期待がもたれる.
転移性胸水の電子顕微鏡による細胞学的検査
転移性胸膜炎による63例の胸水中の細胞を, 電顕的に検査し, 腫瘍細胞と他の細胞との判別, 腫瘍細胞の特徴から原発巣の推測についての検討が行われている.
胸部の癌患者の胸水中の細胞は, 大きな中心空間をとりかこむコロナを形成し, 沢山の橋小体により結ばれ, 短い真すぐな微細絨毛が細胞の周辺にあり, いくつかの分離した細胞は全く周辺のみに微細絨毛を持つていた. 細胞質には濃い分泌顆粒を含んでおり, 細胞内空間は微細絨毛で満たされ, 接面部における境界は管状構造のように認められた. 細胞質は多数のミトコンドリアを含み, しばしば変質し基底糸の断片とゴルジの槽を含んでいる. 脂質はしばしば固定により流出し, 小さな細胞内空胞は微細絨毛によつて縁どられ, 濃い産生物を含んでいる. 細胞質に隣接して分泌顆粒が認められた. その他消化管原発の癌の胸水中の細胞の特徴や膵癌の転移における特徴などが同様に述べられている. 腫瘍細胞とよく誤認されるものに, 慢性胸水における中皮細胞によるマクロフアージがあるが, 長く融合した不整の偽足が悪性細胞の微細絨毛と区別される. また慢性胸水の中皮細胞もむずかしいが, 分泌腺が不整の核はなく, 細胞封入体や細胞内空胞を示さない.