定着プロセスにおけるトナー像の三次元構造の変形過程をシミュレーションするトナー溶融変形計算手法を開発した.開発手法は,定着プロセスで生じている複雑な物理現象の計算を,トナー像加圧履歴,トナー像温度履歴,トナー像圧縮変形量,およびトナー像溶け広がり形状の各ステップに分割して計算することで,計算コストの観点で困難な数ミリ平方メートルオーダーの領域の三次元トナー像構造の変形過程を現実的な時間でシミュレーションする.本手法を用いて,紙上のトナー像の溶け広がり面積を計算し,実験との比較検証を行った結果,計算結果は実験結果を定量的に再現できることがわかった.さらに,紙上のいくつかの位置におけるトナー像の溶け広がり面積のばらつきを計算することで,濃度ムラが紙形状のどのような成分に起因して発生しているかを分析した.分析の結果,トナー像よりも大きいミリメートルオーダーのうねり形状とトナー像よりも小さいマイクロメートルオーダーの微細形状の二つが,濃度ムラを決定付ける因子であることがわかった.