2014 年 7 巻 p. 57-75
本稿は、パリ郊外オベールヴィリエ市で行われた団地地域再生事業の事例にもとづいて、先進国の衰退地区対策として注目される「ソーシャル・ミックス」政策が地域住民やコミュニティにどのような影響を及ぼしているのかを検討する。
フランスでは1970年代末から郊外団地地域の貧困化がすすみ、地域を主体とした住民エンパワーメント政策が行われてきたが、1990年代以降は国の主導の下、地域住民の多様化と異なる階級の共生が目指されるようになり、団地の解体と中産階級向けの住宅の建設がすすめられた。
こうしてオベールヴィリエ市でも2008年から再生事業が実施され、都市の景観は大きく変化した。ところが問題の団地が取り壊された後も、住民の大半は地域内にとどまり、自治体が期待したほど貧困の集中はされなかった。また新規分譲住宅に入居したのは市外から転入した中産階級ではなく、地域内の安定層であり、地域の住民構成にはほとんど変化がみられなかった。
一方、再生事業によって、それまで一つの団地で暮らしていた住民が高度に多様 化された複数の小規模住宅に分散された。それによってそれまでも地域内に存在した小さな差異が際立つようになり、新たな階級意識を生みだした。「ソーシャル・ミックス」政策は、団地という場の解体だけでなく、住宅の差異化を通して新たな階級意識を形成し、下層階級にとって貴重な資源だった地域ネットワークを弱体化させる結果となった。