抄録
本研究は,顔の持つ印象が顔認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,再認成績と視線運動の観点から検討を行なった.まず,脅威性・支配性・信頼感の3種類の印象について,印象を強める方向に操作した顔画像と印象を弱める方向に操作した顔画像を用いて再認実験を実施した.記憶させた顔画像に対して,印象操作を施したものを元の人物と見なすかに焦点を当て,分析を行った.次に,印象を操作した顔を再認する際の視線運動について分析を行った.本研究の結果から,顔印象がネガティブな意味合いの方向に強められるような印象操作が,顔の再認時の照合過程に影響を及ぼす可能性が示唆された.また,顔観察時の視線運動については,記憶する顔の印象の種類や操作方向よりも,被験者間の記憶の方略の違いの影響が大きい可能性が示唆された.