草と緑
Online ISSN : 2424-2551
Print ISSN : 2185-8977
ISSN-L : 2185-8977
有害植物の定義に追加された‘草’:植物防疫法の改正で何が変わるのか
黒川 俊二
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2022 年 14 巻 p. 1-11

詳細
抄録

欧米諸国では,英国のWeed Actや米国のNoxious Weed Act(現在はPlant Protection Actの中に含まれる)など,古くから法的な規制対象として明確に'Weed'(雑草)が位置付けられてきた.一方日本では,作物保護を目的とした植物防疫法においてもこれまで雑草は規制対象外であった.近年になって外来雑草等による深刻な農業被害が顕在化してきたことを受け,2022年4月22日に植物防疫法の一部を改正する法律が成立し,有害植物の定義の中に「草」として雑草が含まれることとなった.これにより年間2,500万トンにもおよぶ輸入穀物に混入して侵入する外来雑草による被害を輸入検疫によって未然に防ぐことができる可能性が出てきた.今後は検疫有害植物の指定に必要なリスク分析手法や検疫現場での検出技術の開発およびその専門家の育成が課題である.また,国内においては,病害虫と同様に雑草も移動規制,発生予察,モニタリング,緊急防除などの対象となりうる.これは雑草に対する人の目が変わる(増える)ということであり,雑草に対する認識が深まる機会になるかもしれない.一方で,欧米諸国では,雑草は農業への悪影響だけでなく,生態系への影響,災害の誘因,アレルギーの発症など人の暮らしに関するあらゆるものに対して害をもたらす'pest'として認識されている.この考え方に基づけば,さまざまな雑草問題の場面において,土地の使用者や管理者がその管理責任について問われることになるだろう.今回の植物防疫法の改正は,日本における雑草の社会的位置付けを変えるということである.これを機会に,私たち自身が雑草に対する認識をどのように変えていくのか,そこに科学がしっかりと関われるかどうか,'pest'である雑草から私たちの生活を守るための重要な局面を迎えていると思われる.

著者関連情報
© 2022 特定非営利活動法人緑地雑草科学研究所

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
次の記事
feedback
Top