草と緑
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14 巻
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 黒川 俊二
    2022 年 14 巻 p. 1-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル オープンアクセス
    欧米諸国では,英国のWeed Actや米国のNoxious Weed Act(現在はPlant Protection Actの中に含まれる)など,古くから法的な規制対象として明確に'Weed'(雑草)が位置付けられてきた.一方日本では,作物保護を目的とした植物防疫法においてもこれまで雑草は規制対象外であった.近年になって外来雑草等による深刻な農業被害が顕在化してきたことを受け,2022年4月22日に植物防疫法の一部を改正する法律が成立し,有害植物の定義の中に「草」として雑草が含まれることとなった.これにより年間2,500万トンにもおよぶ輸入穀物に混入して侵入する外来雑草による被害を輸入検疫によって未然に防ぐことができる可能性が出てきた.今後は検疫有害植物の指定に必要なリスク分析手法や検疫現場での検出技術の開発およびその専門家の育成が課題である.また,国内においては,病害虫と同様に雑草も移動規制,発生予察,モニタリング,緊急防除などの対象となりうる.これは雑草に対する人の目が変わる(増える)ということであり,雑草に対する認識が深まる機会になるかもしれない.一方で,欧米諸国では,雑草は農業への悪影響だけでなく,生態系への影響,災害の誘因,アレルギーの発症など人の暮らしに関するあらゆるものに対して害をもたらす'pest'として認識されている.この考え方に基づけば,さまざまな雑草問題の場面において,土地の使用者や管理者がその管理責任について問われることになるだろう.今回の植物防疫法の改正は,日本における雑草の社会的位置付けを変えるということである.これを機会に,私たち自身が雑草に対する認識をどのように変えていくのか,そこに科学がしっかりと関われるかどうか,'pest'である雑草から私たちの生活を守るための重要な局面を迎えていると思われる.
  • 中山 祐一郎, 金岡 琴美
    2022 年 14 巻 p. 12-29
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル オープンアクセス
    大阪府立大学中百舌鳥キャンパスの緑地(以下、キャンパス緑地)で草本植物の種多様性やその成立要因を環境との関係から解析した研究を元に,植生の違いに影響する環境要因について紹介した.24ヶ所の調査地全体ではステップポイント法によって春に125種,夏に114種の草本植物が記録され,調査地ごとの種数の平均は春と夏でそれぞれ21.4種と19.9種であったことから,キャンパス緑地の草本植物の種多様性は出現種の異なる緑地が集まって構成されており,種数は土壌環境によって異なり,pH,可給態リン酸,硬度,水分量が高いほど種数は少なく,全窒素と全炭素が多いほど種数は多いという関係が示された.また, NMDSによって,春の種組成には土壌の硬度,pH,全炭素および相対照度が関係し,夏では加えて全窒素が関係していることが示された.キャンパス緑地は大きく3つの植生グループに分類された.植生グループ1は樹木密度の高い緑地で,種数が多く,とくに多年生在来種の割合が高く,土壌pHと相対照度が低かった.植生グループ2には芝生地が含まれ,種数が少なく,一年草や外来種の割合が高かった.土壌硬度とpHが高く,全炭素と全窒素は少なく,相対照度は高かった.植生グループ3は,種数が少ないが,他の植生グループには出現しない在来多年生草本を含み,侵略的外来種の繁茂も目立っていた.ウッドチップ材の施工地が含まれ,土壌硬度は低く,土壌pHは中程度で,全炭素と全窒素は多く,相対照度は高かった.植生グループ1には,タンポポ属やスミレ属の在来種や,絶滅危惧ⅠB類のアゼオトギリも出現した.一方,植生グループ2や3は土壌pHが高いために外来種が侵入しやすい環境であると考えられた.そして,これらの結果を元に,都市緑地の管理のあり方について考察した.
  • 黒川 俊二
    2022 年 14 巻 p. 30-39
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ナルトサワギクは南アフリカおよびマダガスカル島が原産地の外来雑草で,アフリカのその他の地域,オーストラリア,ハワイ,日本,アルゼンチン,ブラジル,コロンビア,ウルグアイなどへ侵入している.年平均気温が10〜20℃,年降水量が500〜1500mmの地域に分布しており,日本では1976年に徳島県鳴門市で確認されて以降,西日本を中心に分布を拡大している.日本では主に,放牧地,路傍,高速道路の法面の法枠ブロック,城の石垣や開けた緑地,住宅地,市街地の植え込みなどで生育している.林縁など日射量が少ない場所には生育しておらず,オープンな場所を生育適地としている.短命の多年生草本で,多くの植物体は最初の1年で生活環を終える.主に種子によって繁殖するが,茎断片からの栄養繁殖も観察される.実生の発生および開花・結実が1年を通して観察され,散布された種子は直ちに発芽可能な状態となる.他の植物の生育が抑制されている冬季に開花・結実できるため,素早くナルトサワギクの優占群落が形成される.高温条件で種子休眠が誘導され埋土種子を形成するが,通常その寿命は3〜5年程度である.植物体には,人や家畜に肝毒性をもたらす有毒成分ピロリジジンアルカロイド(PAs)を含有している.侵入・伝播様式は非意図的導入とされ,日本への持ち込みは緑化用種子への混入によるものと考えられている.牧草地や在来草本が生育する自然草地および半自然草地において,競合による在来植生や牧草の衰退,在来近縁種に対する繁殖干渉,有毒性による家畜への健康被害などの雑草害をもたらしている.除草剤を中心に防除方法が検討されているが,牧草や在来植生を衰退させずにナルトサワギクが防除できるかが重要となる.決定的な総合防除技術は確立されておらず,予防原則に基づいて侵入・分布拡大経路の遮断が必要である.
  • 伊藤 幹二
    2022 年 14 巻 p. 40-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル オープンアクセス
    今年,第208回通常国会において,「直接又は間接に有用な植物を害する「草」を追加する」植物防疫法の改訂が可決され,ようやく日本でも法律上,駆除・蔓延防止の対象に雑草が含まれることになります.そこで,生活圏に蔓延する雑草リスクの実態の本質を探ることを目的に,関係者が日頃目にする現状について雑草ウオッチャーへのアンケートを行いデータ化しました.雑草蔓延の進行状況については,立場によって強弱がみられるものの大多数が「増えている」と回答し「減っている」はゼロでした.蔓延場所は農用地も含む空地,道路を筆頭に諸々の生活圏インフラ施設等で,つる性雑草,大型多年生雑草,外来雑草の広がりが目立っています.遷移の加速による木本化の進行も注目されます.このような難防除雑草の増加の主原因は,防除の削減や放棄,雑草・防除法への知識不足のもと大半でゴミ掃除的刈取りが継続さてれていること,適切な除草剤利用が制限されていることの3点と受け止められています.今後必要なことへのアンケート回答者の意見は,「市民・住民,緑地管理事業者,地方公共団体が連携をもって雑草問題や対策の提案を広く共有する活動」にほぼ収斂されます.そもそも政府も私たちも社会経済的損失につながる問題として対処してこなかったことが見て取れますが,これは,日本に雑草管理の司令機能が不在であったということです.今日,世界では雑草害との闘いはほぼ収束しつつありますが,日本では侵略する雑草との本当の闘いはこれから始まるのです.
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