岩手医科大学歯学雑誌
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原著
義歯治療による咬合力の上昇が脳活動に及ぼす影響
-7T f MRI を用いた客観的評価-
中里 文香
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2018 年 43 巻 1 号 p. 36-47

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抄録

認知症治療は,原因を根治できるものが未だ存在せず,あくまで進行を抑える対症療法が主流となっている.そのため,認知症を発症する以前の認知症対策が重要課題となっている.近年,脳血流量の増減が認知機能などの脳機能に影響を与えることが明らかとされてきている.本研究では高齢者の咬合力と脳血流量との関係に着目し,無歯顎高齢者に対して義歯による補綴治療を行い,咬合力の上昇による脳活動の変化を明らかにすることを目的に検討を行った. 対象は,上下顎全部床義歯の新製作を主訴に岩手医科大学歯科医療センターを受診した,65 歳以上の無歯顎高齢者とした.補綴専門医が義歯診察・検査法を用いて初診時装着義歯(旧義歯)の診査を行った結果,要再製と診断された義歯を装着した17 名の対象者を被験者とし,従来法にて上下顎全部床義歯(新義歯)を製作した.口腔機能評価は,咬合力を測定し,脳活動評価は7 T functional Magnetic Resonance Imaging(f MRI)を用い咀嚼運動(chewing)と安静を交互に3 回繰り返すブロックデザインで撮像を行った.評価時期は旧義歯装着時(Old Dentures: OD)と新義歯装着後(New Dentures: ND)とした. 咬合力は,OD と比較しND において有意な上昇を求めた.脳活動は,OD と比較しND において側頭極,下頭頂小葉,下前頭回,島,中前頭回,下側頭回,海馬,楔前部,中側頭回,小脳に有意な上昇が認められた.また,咬合力の増加と相関して,小脳,上側頭回,中側頭回,上前頭回,下前頭回,島,一次運動野,一次体性感覚野,被殻,視床,海馬傍回に脳活動の上昇が認められた. 無歯顎高齢者に対し義歯治療による咬合力の上昇が認められた場合,認知機能や記憶に関与する前頭葉ならびに海馬傍回の脳活動が上昇し,前頭葉ならびに海馬傍回の機能の維持に関与している可能性が示唆された.

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2018 岩手医科大学歯学会
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