抄録
重症の身体精神障害新生児の選択的非治療の問題は、われわれ外科医にとって最も苦慮する問題の一つである。われわれがこの数年間の間に経験した、脊髄髄膜瘤を主とした患者10名につき、その手術の同意、予後について検討した。10例ともなんらかの手術を受けているが、そのうち5名は4年以内に死亡し、残り5名のうちreasonableな生活を送っている、と考えられるのは2名であった。欧米においてはこのような児の選択的非治療についていくつかの論説があり、司法判断も出ているが、患者の利益に関する両親の代行判断の有効性、生命の質判断による治療の差の正当性につき、見解は分かれている。私としては医療のquality of lifeによる判断は避けがたいものである、と考えるが、(1)障害新生児といえどもかれらの能力の範囲で成長し、予後の予測が必ずしも容易でないこと、(2)本人の意思はまったく分からず、代行判断が不可欠であること、など成人の尊厳死の場合より判断の責任は重く、慎重を期すべきと考える。