抄録
生命倫理の重要な基準として、生殖細胞以外の細胞である「体細胞」と、生殖に関連する「生殖細胞」という分類がある。体細胞の研究や治療における倫理問題は、生殖細胞の治療に伴う生殖問題とは異なり、通常の医科学研究や医療と同じであるという見解を生命倫理学者は支持している。一方、近年の幹細胞研究の発展によってこの分類を見直す必要が生じている。本研究の目的は、米国の生命倫理委員会の報告書や議論に基づいて、幹細胞研究における体細胞と生殖細胞の分類基準を分析することである。幹細胞研究では、体細胞と生殖細胞の分類に基づいて、細胞の分化能力をもつ「多能性」と個体が生成できる「全能性」という分類を論じている。一方、体細胞を用いた生殖細胞作製が可能になれば、生殖細胞の倫理問題だけでなく体細胞の倫理問題も論じる必要が生じる。